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展望

科学的社会主義の展望  2023年7月~12月


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●月刊「科学的社会主義」No.308 2023年12月号
      新自由主義路線――矛盾の中に明日への活路がある
                        社会主義協会 代表   石川一郎

 1 貧困と格差社会へ至る道程
 レーガン、サッチャー、中曽根が登場し規制緩和・神の手「市場万能主義」が謳われ、新自由主義が闊歩しだした1980年代から格差社会は顕在化したと考える。
 中曽根元首相の私的諮問機関「国際協調のための経済構造調整研究会」は俗にいう前川リポートを提出した。この報告書は「市場原理を基調とした施策推進」であり、2点目は「グローバルな視点による施策推進」である。このリポートを基調に金融自由化、規制緩和が推進され、1986年労働者派遣法が制定された。謳い文句は専門性の高い職種を中心に柔軟な労働移動をもたらすことで社会・経済活動の底上げを図るというものだ。その後(1999年)、法改正が行われ派遣の範囲が自由化された。さらに2023年には製造業への派遣も可能となる法改正により派遣労働者数は増大、労働市場の流動化による賃金の下降圧力が強まって賃金水準は下降線をたどり始めた。
 これら度重なる法改正の基となる考え方は、1995年日経連の「新時代における日本的経営」と題する報告書を読むとその意図が明確である。ここでは従来の終身雇用を中心とする雇用の在り方ではなく終身雇用は一部の管理職、総合職、基幹職に限定する、専門職、技術職は有期雇用の年俸制にし、一般職、技能職、管理職はパートや派遣にするというものだ。「大株主・資本家」の代理人(取締役)たちの下で生産性向上の旗振り役となる「管理職、総合職、基幹職」にある者たちについては身分を保全する、その他一般労働者は「労働市場の論理」に委ねると言っている。

 2 「自己責任・自助努力」論が登場

 これら労働者派遣法に前後し1998年8月、当時の小渕内閣は「わが国経済の再生と21世紀における豊かな経済社会の構築」という大テーマ設定を基に諮問機関「経済戦略会議」を設置した。そして半年後の翌1999年2月、「日本経済再生への戦略」が答申された。
 この答申を要約すると、「過度に平等・公平な日本型社会システム」は一生懸命に頑張っても怠惰で努力しない人も平等、公平に扱う制度である。日本経済の活性化・再生には行きすぎた平等を排し、「自己責任と自助努力」を基調に健全かつ創造的競争が育つ社会が必要であるとしている。以後、社会生活全領域に渡ってこの「自己責任・自助努力」論が大手を振っており、世界の紛争地中東において子供を含む民間人の受難と悲惨さを報道する報道カメラマンが現地で拘束された事件でも、この論が横行したことは記憶に生々しい。

 3 弱肉強食ムキ出しの資本主義を体現

 労働者派遣法が大手を振るうとともに日本経済の低迷が就職氷河期を産み、非正規、パート労働者が労働市場で40~50%を上回る状況が続き、社会不安から家庭崩壊、犯罪が続く社会現象が生み出された。大企業を中心に内部留保が膨らむ一方。労働者の賃金は上がらず物価上昇に追いつかない状況を呈している。
 長く政権の座にいた安倍首相は、大企業や大金持ちが潤うことによりその下層に位置する中小商工業者、勤労諸階層にもその恩恵が及ぶとのトリクルダウン説を唱えたり、「美しい日本国」などと実態を伴わない美辞麗句を駆使し、かつて「1億総中流」などと浮かれていた国民生活は「若者が将来」に展望と希望を見出せない閉そく感、人生100年時代のへ蓄えも無く、老後に生きる不安漂う国へと変貌させた。
 これが1980年代の中曽根から始まった、「新自由主義・規制緩和・市場万能主義」のもたらした富める者は益々富裕になり、持たざる無産の民と非正規・不安定雇用労働者とその子弟は貧困層へと階層分化が顕著になづていった社会の実態である。
 これを許してきた労働者運動、勤労諸階層の立場に立つ政党はどうだったのか。これは自明のように、資本が長年研究して来た労働組合懐柔・労務政策の前に「企業内労働組合」は弱点を露呈し「会社あっての労働組合」へと変質、総評解体・連合への流れになった。
 日本社会党は農民運動などに関与していた部分はあったもののほぼ自前組織は無く、全面的に労働組合に依存していたため、労働組合が右にブレれば一緒にブレ、まったく主体性のない体たらくで崩壊し、その中から新社会党が誕生した。新社会党は、労働者・労働組合を中核にしつつ生活圏に運動の領域を広げ、そこを組織・運動化しなければ生き延びられない。

 4 放置出来なくなった生活格差と矛盾の拡大

 自公政権の暴走に待ったをかける国民的抵抗も無く、自民党政権が進めてきた新自由主義・前川リポートを基調とした労働者派遣法などの弊害が顕著となり、子供の貧困、生活格差の拡大、生活不安から結婚しない・出来ない若者の増大、出産を忌避する若年夫婦、これらがもたらす出生率の危機的状況と人口減少、生産年齢人口の減少と凶悪犯罪の増加は国の基盤を揺るがす事態になっている。
 政権は子供手当の増額、高校学費無償化、出産費用の補助、はたまた最近は7万円、4万円給付など対症療法の絆創膏張りに終始しているが、新自由主義・規制緩和に基づく「労働者派遣法」などの悪法を撤廃し、労働者が安心して働き、将来展望が描ける雇用環境、子供を産み育てられる保育・教育環境を制度として保証することなしに出生率は上がらない、人口減少に歯止めが掛からないのは明らかだ。

 5 生活困窮者自立支援が法制化

 雇用と労働環境の悪化は。非正規・パート労働などの不安定労働者を大量に生み出すとともに年収200万円を切る貧困層が増大した。これが家庭崩壊、犯罪の増大、社会モラルの崩壊へと突き進んでいる。新自由主義路線が生み出した矛盾「貧困層の拡大」を放置しては社会不安を助長し、国民統治に危機感を募らせたのか、弥縫策「生活困窮者自立支援法」が2013年制定された。この法制化には巷間政権与党・公明党国会議員団が汗をかいたと言われている。
 また安倍の後を引き継いだ岸田首相は、不安定雇用と格差・貧困の原因は新自由主義がもたらした各種経済政策、労働政策にあると自覚したか?、国民に淡い期待を持たせ目晦ましを意図したのか「新しい資本主義」なるものを掲げ登場したものの、まさに羊頭狗肉、何の是正方策もなく安倍政権の路線を継承している。ウクライナ戦争、加えて中東戦争の勃発がもたらす物価高騰と上がらない労働者賃金と窮乏化する勤労者の生活、内部留保が溜まりにたまる大企業。会社あっての労働者との企業教育が一人ひとりの職場労働者と組合幹部に浸透し、戦えない労資協調企業内組合と連合。労働組合が自立的に戦い取れないのを放置しては国民生活と社会が不安定になり自公政権(体制)が持だないとの危機感によるものか、政権からの助け舟により5%以上を来春賃上げ要求に掲げるという他力本願の連合である。

 6 社協、公益法人への委託による弥縫策メニュー
 
このような新自由主義下における諸矛盾対策として生活困窮者支援法や、学校や働きに行けない引きこもりの人たちへの支援制度が定められた。その主なるものを列記する。

 (1)子供の学習、生活支援事業
  県、市町村による生活困窮家庭の児童を対象とした学習支援・生活習慣、育成環境の改善
 (2)一時生活支援事業(社会福祉協議会に委託し各種貸付金制度)
 (3)居住支援の強化事業
 (4)生活困窮者に対する包括的支援体制の強化事業
  自立相談支援窓口の設置による①就労準備と訓練により就労への導き、②引き籠もりや働き難いハンディを抱える就労困難者への就労への導き、③家計改善支援
 (5)生活保護制度における自立支援の強化事業
  ①生保世帯子供の貧困連鎖を断ち切るため、大学進学への支援、②生活習慣病予防などの取り組み強化、③貧困ビジネス対策と単独での居住困難者への生活支援
 (6)一人親家庭の生活安定と自立促進事業
 (7)若者サポートステーション
 (8)フリースクール

 都道府県と市町村は国から示されたこれら支援制度の殆どを外部委託により実施している。私か理事長の社会福祉法人も市から「生活困窮者就労準備事業」の委託を受けているが、単年度契約であり且つその委託費も安いからその任務に当たる職員も精選採用出来ない。この制度が何時まで続くのか、委託費を含め恒久的位置付けで無いため、不安定委託となり救済策は実効性が伴わない形式的なものにならざるを得ない。
 新自由主義がもたらすこれら矛盾の中にこそ、我々が切り込み影響力と支持を拡大するチャンスがある。天下・国家論、社会主義のあるべき論を講釈することも大切だが、新社会党は一般生活圏・消費生活圏を舞台にした細やかで具体的活動方針を、党員と活動家に明示する必要がある。もちろんその根底には平和憲法がある。そこに私たちが支持を広げ生き延び明日への展望を切り開く道がある。
 一方では立憲野党が連帯し一日も早く自公政権を退場させ、新自由主義路線から国民生活優先の政治に変えない限り、私たち国民に明るい未来が来ないのは明らかだ。
     (いしかわ いちろう)



●月刊「科学的社会主義」No.307 2023年11月号
      沖縄とともに戦争反対のうねりを
                           社会主義協会 代表   石河康国

 「沖縄だけではなく本土も戦地になる可能性を考えると、まず発端にとなりうる沖縄戦を止めなければならないと感じた」(30代)。「装甲戦闘車が公道を走っていたこと。」「自衛隊がますます軍隊になっているように思いました」(30代)。「最も印象に残った場面」は「牛歩デモでの下地さんの娘さんの言葉。ミサイル弾薬庫建設がなければ、みんなゆっくりとした朝が過ごせるのに…と仰っていた場面。平和な日常がいかに尊いか、言葉に想いがつまっていると感じました」「知らない事だらけだったので、今日感じた危機感を自分のまわりにも共有してもらいたいと思いました」。(40代)。「まさにのどかな南国というような風景の広がる島に、あまりに似つかわしくない『兵器』が闊歩する様子に嫌悪感。戦争準備は着々と、じわじわと突然ではなく進められて行く。しかも不可逆的に、反対はなかったことにされ、説明もされずに。」(40代)。
 これは8月4日に私の地元でおこなった三上智恵監督の「沖縄、再び戦場へ」スピンオフ作品上映の感想文である。80人ほどの参加者の3割近く若者―後期高齢者の私からすると40代も「若者」―がいた。東京清掃労働組合の皆さんだ。山城博治さんのオンライン報告含め9時近くまで続いたが、最後まで参加してくれた。翌日は早朝からの勤務なのにありがたいことだ。
 彼等の感想文がまたいい。若者は戰爭をイメージしづらいと言う先入観はなくしたほうがいい。ウクライナ戦争が連日映像化されていることの思わぬ効果かもしれない。放映する側はウクライナの「正義の戦争」とえがき出し、「今日のウクライナは明日の日本」をすり込もうとするのだが、犠牲となるのは住民と兵士である悲惨な戦争の現実を知らせることにもなっている。
 だからこそ「抑止力強化」だと煽られる人々もいるが、落ち着いて物事を考える若者はそうでもない。特に沖縄の人々の苦悩を目にすれば「反撃用ミサイルを配備すべきだ」などとは考えない。そんな危ないものをおくなという住民の感覚は伝わる。「平和な日常」のために自衛隊車両を止める住民、村の公道を通過する戦車にむかって「そんなことしたら戦争になっちやうよ」と立ちふさがる住民。行動に起つのは少数ではあっても、きっと大多数の住民は同じ気持ちだろうなと想像できる。少なくとも労働組合で仲間同士のきずなを大事にしようと学んだ若者には感知できるようだ。
 抑圧する者への反発も、正義感も、「最近の若い者は」などと囗にする世代より新鮮なのではなかろうか。若者には戦争反対を押しつけるのでなく、身近な問題から接していくべしというのも一理あるが、意外とストレートがいい場合もある。要は相手の感性に信頼をおくことだ。
 スピンオフ作品の反響は大きい。水が海綿にしみいるように、武力で平和は守れないということが納得されていく。

  *
 「第三極」という表現の起源は定かでない。十数年も前であろうか、「近畿第三極」という表現が使われ出したのが発端だったように思う。近畿の労働運動、社会運動の活動家たちが、民主党には不安、共産党はやや敬遠というスタンスで政治的共同を求めて起こした運動だ。新社会党委員長になる松枝佳宏さんや、社民党幹事長になる服部良一さんもそういう輪のなかにいたと思う。
 「近畿第三極」の古強者がたびたび東京に来て、新社会党は共同の核としてがんばれ!とはっぱをかけられた。大阪中電「マッセン・ストライキ」指導者として名をはせた故・前田裕晤さんは猛者を想像していたのだが、お会いしてすぐ人柄にほれこんだ。新社会党が社民党、みどりの党や市民運動と国政選挙での共同をめざした最初の試みであった「9条ネット」は、「近畿第三極」の支えもいただいた。それは本格的な選挙協力には至らなかったが、新社会党と連携する人々は格段に増えた。
 けれども「第三極」の必要性は、まだ活動家層の問題意識であった。私のような社会党出自の者には、労農派の伝統は第三極的なスタンスだという思いがあった。総評・社会党解体に抗して岩井章・太田薫・市川誠が呼びかけた「労研センター」に参加した無党派活動家には、社会党解体後の惨憺たる野党を変革する塊を再構築しようという意気があった。村山時代の基本政策転換を反省した『社会民主党宣言』を採択した社民党にも同様の志をもつものが生まれた。
 この小さな芽は大きな意味をもっていたと思う。けれども「プ囗」にはその意味は通じても、「民主党系でも共産党でもない勢力の結集」とか「民主党系と共産党の接着剤」とかネガチヴな説明しかできないもどかしさはあった。
 しかし今や「第三極」は大手を振って歩ける。民衆の必要性に応えるものであることが明かになったからである。

  *
 「武力で平和は守れない」という真理は憲法9条の精神として広かった。改憲派が未だに9条改憲発議には慎重なのは
その成果である。しかしまだ理念の問題であった。
 ここ数年は違う。とりわけ「安保三文書」以降は理念だけでなく現実の選択の問題となった。集団的自衛権行使の是非が問われた戦争法のときは、インド洋上などでの米軍の戦闘支援への自衛隊の参加が問題とされたため、「専守防衛」を逸脱するとして野党の大多数は反対した。今は「台湾有事」が想定され、実際に南西諸島の軍事基地化が強行されている。「有事」では自動的に自衛隊は参戦し、日本領土は反撃対象とされる。「専守防衛」を超えるという主張は正当だが、「ミサイルが飛来するのを指をくわえて待つのか」という論法には脆弱だ。むしろ攻撃対象となるような武装をやめることこそが攻撃回避の現実的な選択であり、対抗の論理となる。並行して「外交努力」が重要なのはいうまでもないが、相手の喉元にミサイルを突きつけた外交より、軍備を削減した外交の方がはるかに実り多いにちがいない。
 つまり「非武装・中立」(非同盟といってもよい)が、戦争の根を断つための唯一の現実的選択肢なのであって、しかも悠長に将来の理想などと言っていられない。沖縄の運動が切に訴えているのはそのことなのである。自衛隊の即時廃止など求めているのではない。せめてミサイル配備、軍事基地化を止めよというのである。しかし口先で求めるのでなく、沖縄は辺野古新基地建設への抵抗のように実力で阻む覚悟を腹に据えている。実際先島諸島では数人、数十人で行動を起こしているのは、スピンオフ作品でわかる。
 「第三極」とはこうした沖縄の闘いと連帯する「非武装・中立」の政治勢力なのである。ほんらい立憲野党すべてがそうでなければならない。けれども立憲野党も選択肢が具体化されるほどに基本政策が問われる。立憲民主党の混迷はひとえに「日米同盟基軸」と「抑止力容認」の故である。共産党は9条擁護の最大の力だが、その展開としての「非武装・中立」では不徹底な態度が見受けられる。まずは社民党、新社会党などを核として小さくとも揺るぎない政治勢力が必要とされる。「第三極」のネガチヴな説明は不要で、野党共闘の日陰者みたいな誤解ももうなくなった。そして粘り強く沖縄の現実をうったえ、沖縄の民衆運動との交流を組織するなら必ず理解はひろがり、立憲野党の姿勢も正される。

  *
 11月23日には山城博治さんが事務局長を勤める「沖縄を再び戦場にさせない県民の会」が大集会を開催する。その県民集会への全国の呼応を求め山城さんが全国オルグに入っている。それを社民党、新社会党、戦争させない1000人委員会、「共同テしブル」などが受け入れ各地で意欲的な取り組みが次のように企画されている。
 10月4日「千葉県共同テーブル」集会、17日「共同テーブル」主催シンポジウム、18日「静岡沖縄を語る会」集会、19日午後「共同テーブル」・社民・新社で都内駅頭宣伝、同夜「戦争させない埼玉1000人委員会」集会、20日名古屋「愛知沖縄会議」集会、21日大阪実行委員会集会、22日兵庫実行委員会集会である。神奈川では10月20日に市民団体が、「県民の会」共同代表の瑞慶覧長敏さんを呼んで「再び戦場にさせない横浜集会」がおこなわれる。
 これが「第三極」の具体化なのである。こうした取り組みが広がれば、来る解散総選挙で戦争準備の是非を重要な争点として浮上させることができる。総選挙こそが、最初の全国的な沖縄連帯行動であると思う。そしていつまでも沖縄に頼っていてはいけない。山城さんの話の端々に沖縄でも高齢者が体力の限界まで行動しており、若者に参加を拡げるために懸命の努力をしていることがうかがえる。
 「安保三文書」路線との対決は長丁場となる。次世代に引き継がねばならない。沖縄が戦場となることは日本全体がそうなることであって、戦争の準備は国の相貌を変え、生活も権利も蹂躙されていくという理解を、沖縄にまなび全国津々浦々に拡げることである。
 三上監督のスピンオフ作品だけでも、多くの若者を揺さぶった。来年、本篇が完成し全国で上映運動が始まる。これも大きな力となるだろう。
     (いしこ やすくに)



●月刊「科学的社会主義」No.306 2023年10月号
      暮らし・職場を軽視しての軍拡と少子化対策
                        社会主義協会事務局長   福田実

 はじめに

 格差と貧困層の拡大の中で、「防衛費の二倍化」や「異次元の少子化対策」を自民党・岸田首相は強調する。しかし、その財源問題では四苦八苦している。それは彼らの階級的立場から税制の原則である「応能負担による財源確保」に切り込むことをしないからである。それは彼らの支持基盤の負担を強化することになるからである。
 他方、各級選挙が毎年の様にある中で、支持率が低下傾向にある自民党・岸田政権はあからさまに、誰にでもわかる庶民増税も選択しづらい。まして、物価高・低賃金・低年金の中で生活を切り詰めている99%の人々がいる現状がある。だから「大軍拡の財源」では歳出削減・決算剰余金・NTT株の売却など国有資産の売却・国債発行・特別会計(外国為替資金など)からの繰入れ・たばこ税・消費税増税などが取りざたされてきた。増税感をもたらし、世論の支持を得られない所得税増税を最少(約1兆円)にしようと考えているのだ。こうした軍拡の財源は全て暮らし・社会保障の飛躍的な充実に投入すべきである。
 そもそも憲法は戦争を、軍事費を、想定しておらず、軍拡のための予算は認められないのである。大軍拡に財源をつぎ込むほど「異次元の少子化対策」では「財源不足」になる。今取りざたされているのは社会保険料の上乗せと社会保障費の削減である。
 こうした財源確保は反対である。物価高騰(*今年の食品値上げが3万品目を超える)の下、従来から生活苦が続く多くの人々への負担を強化してはならない。岸田政権は、もし「異次元」の大軍拡や少子化対策をするならば、大企業・富裕者の負担で賄うべきである。

 1、軍事費の推移、少子化対策の概要と財源

 大軍拡は超特急だ。当初予算でみると21年度は約5・3兆円余、22年度は、約5・4兆円、23年度は6兆8219億円(前年度より1・4兆円余の増)であった。24年度はこれより9166億円多い7兆7385億円を概算要求として出している。前述は補正予算が含まれていないので軍事費はさらに多い。当初予算では近年、前年度からの伸び輻は500~600億円だったから「異次元の大軍拡」が暮らしを犠牲にして膨張していることが、数字によって示されている。軍事費5年間(23~27年)43兆円は年平均8・6兆円にもなる。また、GDP2%の軍事費は最近のGDP約550兆円を踏まえれば年約11兆円にもなる。岸田政権の政治は、まさに「福祉・暮らし そこのけそこのけ 軍拡が通る」である。
 「異次元の少子化対策」の中味はどうか。児童手当の所得制限の撤廃と高校卒業までの延長・手当額の拡充、保育士の配置基準の改善等がある。これまで新社会党など立憲野党や関係者が要求してきたものをようやく取り入れた内容も見受けられる。一部良い所もあるが、高等教育の授業料無償化(1・8兆円)、学校給食費の無料化(4500億円弱)も「集中3年間」にない。こうした無償化がなければ異次元でも何でもない。
 新社会党は今年7月全国大会議案では財源問題について次の様に記述している(趣旨抜粋)。「2023年度の子ども・子育て予算は7兆5228億円。倍増すると最低でも約15兆円か必要。財源では消費税の引上げを否定しているため、社会保険(医療保険)料への上乗せと社会保障の歳出削減が検討される。社会保険料の引上げには日本経団連と連合が反対なので、社会保障の歳出削減は年金・医療・介護での給付削減と負担強化が必至」と。政府は新たな財源は「3兆円半ば」としているが、従来の項目を限定し、「異次元の少子化対策」と誇張している。
 新社会党だけでない。伊藤周平・鹿児島大学教授は日経(23年7月3日)で以下の様に指摘した。(以下、趣旨)
 「経済界は社会保障の安定財源とされる消費税による財源確保を主張する。(中略)歳出削減の最大のターゲットとされるのが、医療―介護分野で窓口負担や利用者負担の引上げ。保険給付範囲の縮小、診療報酬・介護報酬の抑制などの徹底した給付抑制策。(中略)高齢者や病気・障害のある人への給付を削って生命の危険にさらし、少子化対策の財源を確保することが、あるべき財源確保の手法とは到底思えない」と。「異次元の少子化対策」で一番問題なのは、①結婚できない、子育てが困難などを抱える低賃金・不安定雇用の非正規労働者をどうするか、②所得再配分(税制の応能負担)、③ジェンダーフリー、の視点がないことであろう。

 2、少子化の抜本的改革なしの岸田政権

 北丸雄二さんは東京新聞(23年6月30日)で言う。
 「日本は男性より女性が下に置かれる中世の辺境。しかも年収300万円未満の30代男性は、恋人無しが38・6%、それどころか交際経験なしも33・6%(内閣府調査)。女にはひどい沼地だし若い男にはつらい砂漠だ。いくら子ども生んでと金配って懇願しても、荒野に肥料ばら撒きしている不毛」と。
 少子化問題のアンケート調査もある。ある製薬会社が今年4月末に全国の20~40代の男女3万人を対象で行った。その結果は、「子供を授かりたい」33%、「思わない」44・1%である。その理由(複数回答可)は、経済的に厳しい29・7%、年齢的な問題がある19%、自分の時間を楽しみたい18・8%、将来の見通しが立たない17・8%、パートナーがいない17・4%、仕事を優先したい15・3%、国や自治体の支援が不足15%、職場の支援制度が不足103%などである。
 このアンケート結果をどう見るか。経済的な問題、ゆとりがない職場の問題、仕事と生活が両立しづらい環境、子育てを楽しめない環境など、と少子化対策を放置してきた政治が根本的な問題と言える。また、結婚できない、子育てができない非正規の賃金を底上げするために必要な今年の最低賃金は全国平均時給1004円になった(昨年は961円)。「格差是正・全国一律一1500円」にはまだまだ遠い。外国ではどうか。新社会党の機関紙「新社会」(23年8月9日号)では下記の様に指摘する。
 「為替相場の円安推移も有り、日本の最低賃金は他の先進国と比べると見劣りする。アメリカのロスアンゼルス市では、昨年7月に時給15ドルから16・04ドル(約2161円)に引上げられ、オーストラリアでは、最低賃金が8・7%引上げられ時給23・3豪ドル(約2230円)となった。ドイツでは24年から12・41ユーロ (約1790円)、25年には12・82ユー囗(約1849円)になることが決定済み。韓国でも24年度(1月~12月)の最賃時給を9860ウォン(約1083円)に引き上げることを決めた。5万人の生計費調査でも明らかのように、若者が自立してまともに生活するには、時給1500円以上(月給24万円~25万円)が必要」と。
 正規労働者は3614万人だが、非正規は2116(万人で雇用労働者の実に35%を占め、しかも、その7割が女性である。非正規労働者の平均収入は198万円(男性232万円、女性164万円)という低さである。非正規の暮しを支え、経済の長期停滞をも脱するためには、人々の暮らしを良くすること。そのためには、最低賃金の大幅な引上げ、同一価値労働・同一賃金、非正規を正規雇用へ、税制による所得の再配分が必要だ。
 こうした課題の放置が、22年の日本人出生者数が初めて80万人を割り、77万余人と過去最少を記録し、出生数は予測を10年以上前倒しで少子化を進ませた。

 3、少子化対策は、大企業・富裕者へ負担を求めよ

 ここでは私たちの税制の原則を再確認したい。それは生存権保障をはじめとした憲法の趣旨に沿うものである。具体的には、①直接税中心(個人所得税、法人所得税など。消費税は間接税)、②総合累進課税(対立するのは分離課税)、③最低生活費・生存的財産非課税、④勤労所得軽課税、不労所得重課税である。
 自民党はこの原則を破壊し続けてきた。間接税の消費税収入(逆進を持つ大衆課税)は法人税をはるかに上回り税収の一位を占める。それとは逆に、富裕者の個人所得税・住民税を最高税率の引下げにより大幅に減税を進めた。法人税も大幅に引下げてきた。さらに、分離課税によって富裕者を優遇してきた。例えば、株式の売却益・配当金は所得税・住民税合わせて20%である。これは不労所得重課税の逆を行くものである。昨今、「サラリーマン増税」の動きもある。つまり、政府税調答申で退職金控除の縮小、給与所得控除の縮小等々が提起された。富裕者は優遇、額に汗して働く人々には課税強化では、「強きを助け、弱きを挫く」政治である。

 4、終わりに

 最後に下記の文章を記し終わりにしたい。
 「70年代半ばから始まった新自由主義の転換は、世界のいたるところで格差を拡大し、貧困を増大させ、雇用の不安定化、社会保障水準の低下をもたらし、若者の夢を奪い、生存の不安定性を増大させた」「世界人口の2割が資源の8割を消費する一方で、世界の半分は飢えている。これらはまた、民族間よ示教間の摩擦を生み出す土台でもある。不断に生み出される社会に対する不満や怒りを排外主義・ナショナリズムに転化するのは支配階級の常道である。」(社会主義協会新テーゼ 補強版2017年)
     (ふくだ みのる)


●月刊「科学的社会主義」No.305 2023年9月号
    K・マルクスのヴェラ・ザスーリチへの手紙と草稿について
                        社会主義協会理論部長   野崎佳伸

 1881年2月、ロンドンに住むK・マルクスは一通の手紙を受け取った(差出の日付は2月16日)。差出人はジュネーブに亡命中のロシア人革命家、ヴェラ・ザスーリチであった。マルクスは4つの草稿を準備したうえで、結局3月8日付で短い回答を返した。これが有名な「ザスーリチへの手紙」(以下、「手紙」)である。「手紙」について論ずる場合には、1877年に書かれたとされる「『祖国雑記』編集部あての手紙」、及び1882年にF・エンゲルスとの連名で書かれた「『共産党宣言』ロシア語第二版序文」(以下、「序文」)が併せて取り上げられることが多い。
 近年、斎藤幸平氏はマルクスが中期頃まで保持していた「ヨーロッパ中心主義」「単線的歴史観」を晩年には克服していた証拠としてこの「手紙」「序文」を紹介している(「人新世の『資本論』172頁~。ここまでは佐々木隆治『カール・マルクス』(ちくま新書、2016)やケヴィン・アンダーソン『周縁のマルクス』(社会評論社、2015)ともほぼ共通する認識である。だが斎藤氏は更にアンダーソンをも批判して、マルクスは「手紙」等で「生産力至上主義」とも決別していたという。果たしてそこまで言えるどうか。ちなみに斎藤氏はアンダーソンの書を「素晴らしい研究」とも言っているように、『周縁のマルクス』は有益で、一読をお勧めする。
 さてザスーリチとマルクスのやり取りのテーマをまず振り返っておこう。ザスーリチは「手紙」で次の通りマルクスに質問と要請をしていた(大月版マルエン全集第19巻の注解155より抜粋)。【ザスーリチは、後日労働解放団を結成した彼女の同志たちを代表して・・・ロシアの歴史的発展の展望、とくにロシアの村落共同体の運命についてのマルクスの見解を聞かせてほしいとたのんだ。ザスーリチはその手紙のなかで『資本論』がロシアで大きな人気を博していること、ロシアの農業問題や、村落共同体についての革命家たちの討論のさいにも『資本論』がある役割を演じていることを書いていた。手紙は続けて次のように述べている。「この問題がロシアで焦眉の問題だということ」、「・・・とくにわが」ロシア「社会党にとってそうだ」ということは、「あなたはだれよりもよくご存じです。・・・最近では、村落共同体は古代的な形態であって、歴史・・・によって没落すべき運命に定められているという意見を、私たちはしばしば耳にします。そういう説をとなえる人々は、あなたのほんとうの弟子、『マルクス主義者』だ、と自称しています。・・・市民よ、この問題についてのあなたのご意見にわれわれがどんなに深い関心を寄せているか、わが国の村落共同体のありうべき運命について、また世界のすべての国々が資本主義的生産のすべての段階を経過することが歴史的に必然的だという理論について、あなたがご自分の考えを説明してくださるなら、われわれにとってどんなに大きな助けになるか、これでお分かりだと思います。」】
 およそ50年ほど前、わが国ではマルクスの「手紙」と「草稿」が盛んに論じられた時期があった。時代は中ソ論争、「プラハの春」弾圧事件など、ソ連型社会主義に国の内外から疑問が投げかけられ、「正統派マルクス主義」の歴史観にも再検討する試みの一環だったと思える。特に平田清明、山之内靖、田中真晴らと並んで、経済学者・淡路憲治は『マルクスの後進国革命像』(未来社、1971年)を著わし、その第三部「晩年のロシア革命像」で「「祖国雑記」編集部あての手紙」「手紙」『草稿』「序文」等の検討に多くの頁を割いていた。そして1975年にはロシア史学者・和田春樹が『マルクス・エングルスと革命ロシア』(勁草書房)を出版した後、この論争はいったん下火になっていった。ここでは以下、主に和田の著作に依って記述する。( )内は和田の書の該当頁を示す。
 さて、マルクスの[手紙]「草稿」のなかみに立ち入る前に、それらがたどった数奇な運命について見ておこう。
 まず「草稿」だが、これはマルクス死後もエンゲルスは公表せず、1911年になってリャザーノフがラファルグ所蔵のマルクス文書の中から発見し、1913年にはベルンでブハーリンが解読を手伝った(165頁)。1911年はラファルグ夫妻が11月26日にフランスで自殺しており、リャザーノフは第ニインターから遺稿整理を託されたものであろうか。当時リャザーノフはプレハーノフとザスーリチに対して「手紙」は存在するかと問うたが、回答は否定的であった。その後「手紙」が1923年に発見され、リャザーノフはザスーリチとマルクスの往復書簡と共に、この「草稿」四編を翌年にロシア語に訳して(元はフランス語)初めて公表した。従って、レーニンはこの遺稿を見ていないが、ブハーリンはその存在を彼に伝えていただろうか。その形跡はない。
 次に「手紙」のほうであるが、マルクスは1881年3月8日付で返答し、10日にはザスーリチの下に届いた。レフ・デェイチ(デイチとも)はその日のうちに、短い感想を添えてプレハーノフに写しを送ろうとしたが、ぐずぐずしているうちに13日になって皇帝アレクサンドルニ世が爆殺されるという事件が起こった。この手紙はようやく17日に投函された(189頁)。「手紙」の内容が素っ気無いものであったこと、それ以上に皇帝暗殺の衝撃によって忘却されていったものと思われる。なお「手紙」はアクセリロート文書の中にあった。
 さて先のマルエン全集の註解ではザスーリチの次の依頼がオミットされているので、補っておこう。「もしも、この問題に関して多少ともくわしくご意見を開陳して下さる時間が今のあなたにない場合には、せめて手紙の形式ででもそうして頂ければ、そしてその手紙を翻訳し、ロシアで公表することを私にお許し下さねば、幸いに存じます」。
 ザスーリチ達は公刊しうる形の回答を求めていた。これに対しマルクスは公表を断ったうえで、『資本論』に示されている。「耕作者の収奪」の分析は、ロシアの農民、彼らの共同体的土地所有の運命には適用できないこと、共同体は「ロシアにおける社会的再生の拠点」であり、それがかかるものとして機能するためには、まず、外からの「共同体に襲いかかっている有害な諸影響」を排除し、「自生的発展の正常な諸条件をこの共同体に確保することが必要であろう、と書いた。
 「資本主義的生産の創生を分析するにあたって、私は次のように言いました。『資本主義制度の根本には、それゆえ、生産者と生産手段との根底的な分離が存在する。・・・この発展全体の基礎は、耕作者の収奪である。これが根底的に遂行されたのは、まだイギリスにおいてだけである。・・・だが、西ヨーロッパの他のすべての国も、これと同一の運動を経過する』。だから、この運動の「歴史的宿命性」は西ヨーロッパ諸国に明示的に限定されているのです。・・・この西ヨーロッパの運動においては、私的所有の一つの形態から私的所有の他の一つの形態への転化が問題となっているのです。これに反して、ロシアの農民にあっては、彼らの共同所有を私的所有に転化させるということが問題なのでしょう。・・・」(大月版全集19巻、238頁下段。傍線強調はマルクスによる)。
 マルクスがここで引用している『資本論』はフランス語版である。日本語訳『フランス語版資本論』(法政大学出版局、。1979)では下巻の307頁、四五六頁にあたる。この部分が分冊形式で刊行さかたのは1875年である。「草稿」1~3にはすべてにあるこの「西ヨーロッパ云々」の部分が「手紙」にも残さわたことはせめてもの敘いであった。というのは、『資本論』ドイツ語版第一版序文にある、後にその解釈でもめることになるあの言葉、「とはいえ、イギリスの工業労働者や農業労働者の状態を見てドイツの読者がバリサイ人のように顔をしかめたり、あるいは、ドイツではまだまだそんなに悪い状態にはなっていないということで楽天的に安心したりするとすれば、私は彼に向って叫ばずにはいられない、ひとごとではないのだぞ!と。」に、西ヨーロッパという限定を付けたことを強調しているからである。
 この「西ヨーロッパ限定」の強調は、和田によれば「『祖国雑記』編集部あての手紙」(1877年と推定。和田は1878年と推定)が初出のようである(109頁)。そこには「本源的蓄槓にかんする章は、西ヨーロッパにおいて資本主義的経済秩序が封建的経済秩序の胎内から生まれでてきたその道をあとづけようとだけするものであります。」と記したうえで、先のザスーリチへの回答にあるのと同じ「だが、西ヨーロッパの他のすべての国も、これと同一の運動を経過する」という記述を引用している。
 マルクスがザスーリチへの返答を少なくとも第三草稿まで熱心に書き上げながら(但し、第三草稿は未完)、第四草稿と「手紙」がつれないものになった理由について、アンダーソンは何も記していない。そればかりか、アンダーソンはマルクス・エングルスとロシアのナロードニキとの関係の考察をそもそもしていない。一方、和田はこの時期、マルクス・エンゲルスはロシアの革命に期待をかけ、テ囗ルをも容認する方向に傾きつつあり(117頁)、1879年夏にはナロードニキ結社「土地と自由」は、テ囗ル派・政治闘争派=「人民の意思」党と、テロルは農民工作の妨げとなるとするプレハーノフ、ザスーリチらの所属する「土地総割替」派への分裂が決定的となつた。しかもマルクスの毛嫌いするヨハン・モストが後者支持に回ったため、二人は人民の意志派支持に回ったという(129頁)。だが、それだけではマルクスが「手紙」の第三草稿を書き上げるまで、なぜあれほど真剣に取り組んでいたものを、突然態度を改めたのかの説明にならない。和田も困惑しているようにみえる(185頁、188頁注30)。
 さて、「『祖国雑記』編集部あての手紙」は結局発送されなかったのだが、マルクスの死後、それを発見したエンゲルスは84年3月に写しをザスーリチに送った。和出によると、それはザスーリチらへの皮肉のつもりだったという(238頁)。ザスーリチらは結局それを印刷せず、86年に人民の意志派によって発表された。明らかにされたこの晩年マルクスの見解は、日の目を見ないまま経過した「手紙」「草稿」とは違って論争の種となったようである。労働解放団や後のロシア社会民主労働党にとって、マルクス・エングルスがナロードニキの主流派に好意を寄せていた期間があったということは不都合な真実であって、スターリン以後のソ連史では消し去られてしまった。
 このテーマについてはいずれ続編を寄稿したいと思う。
     (のざき よしのぶ)


●月刊「科学的社会主義」No.304 2023年8月号
    迷走する岸田内閣、奮起が求められる立憲野党
                        社会主義協会事務局次長   津野公男

 闘いは終わっていない
 第211通常国会は終わった。今後の日本の行方を左右する、そのまま放置すれば今後に禍根を残す多くの重要法案を可決、成立させられてしまった。
 原発の稼働年数を60年に延長できるGX脱炭素電源法、「女子トイレを護れ」などと主張する自民党など保守勢力の圧力に屈して、理解増進どころか「すべての国民が安心して生活できるよう留意する」と、当事者たちの不安を置き去りにしたLGBT理解増進法、防衛費のGDP比2%達成を意図した防衛財源確保法、難民申請3回目は国外退去に道をひらくなど世界の流れに逆行する改定入管法、来年秋には現行健康保険証を廃止するマイナンバー関連法などである。
 街頭では連日のように抗議行動が展開されたが、最終的には議席数を誇る自公の与党と維新・国民民主の多数で押し切られた。。
 しかし、闘いが終ったわけでは決してない。法案が通ったからといっても火種は残したままであり、議論も闘いも続く。国民の不安や不満は高ま‘つている。マイナンバー・カードの迷走が主な原因であろうが、岸田政権に対する支持率は10%~15%(読売)も急減している。
 また、軍拡法案(財源確保法)は実際的な具体化、予算措置はこれからの議論であるし、マイナンバー・カード関連で健康保険証の来年秋廃止にしても、これだけ国民の中に不安が広がり反対も多い実情では、来年秋に踏み切ることなどできるはずはない。マイナンバー関連では、国会の閉会中審査で、マイナンバー・カードを持たない患者の受診拒否などできるはずもなく、資格証明書を交付すると政府は言う。ようするに闘いは今からなのである。そして、迷走する岸田政権の内閣支持率が低いなかでは、反対運動の高まり次第では局面を変化させる可能性がある。

 骨太の方針2023を見る
 6月16日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2023」(いわゆる「骨太の方針2023」)では、少子化対策、経済・食料安保、労働市場改革、所得向上による分厚い中間層形成などが挙げられている。
 少子化対策では、児童手当を所得制限なしに高校生まで拡大する、また多子加算も対象を拡大する、両親に対しては育児休業での育休給付の拡大、親の就労を問わずこどもの保育園利用などが並んでいる。
 現状よりは改善されることになる。「骨太方針」ではこれらの政策は2024年度から順次進められることになっていて、3年間で年3兆円台半ばまで財源を確保するとしている。しかし、周知のようにこの財源は歳出抑制と社会保険料への上乗せ、必要に応じて子供特例公債発行となっている。そして財源に関するすべての議論は先送りされている。
 なお財源問題に関わる点では、今国会で強行可決された、増加する防衛費の財源確保法でも財源の議論は先送りされている。同法は、「骨太方針2022」(昨年5月)でNATO並みに軍事費のGDP比2%への増額が決められ、第211国会に法案化されたものである。周知のように、今後5年間で軍事費の総額を43兆円強と見積もり、14兆円強の新たな財源を要し、足りない分は税外収入(コロナ予算の積立金等の国庫返上など)、決算剰余金、歳出改革等で11兆程度確保し。残りは「租税措置=増税」(法人税、たばこ税の引き上げ)と東北大震災の復興特別所得税の半分を充てるとしている。
 少子化対策、軍事費の財源確保については、今後の紆余曲折も予想され、とりわけ軍事費関連では反対闘争の高まりによっては食い止めることも可能である。また、少子化政策はさらに充実、早期実施も望まれるものであるが、岸田政権発足時の再分配機能強化の約束通り、金融資産課税の引き上げなどで可能である。
 労働市場改革は、労働(力)移動の円滑化に重点が置かれている。
 硬直的な日本の雇用が成長を鈍らせてきたという基本認識のうえにたち、成長産業への労働力移動を円滑にしようというものだ。そのために、退職金制度において、勤続期間が短いと退職金費不支給という慣行をなくす、勤続年数によって差がある退職金にかかる税負担の差を縮める、現行の雇用保険制度の自己都合退職の待期間3ヵ月を、リスキリングの実績があれば会社都合退職に合わせるなど、ようするに辞めても損のないよう、他企業への移転をしやすいようにということである。
 確かに辞めたい人が辞めやすくなるのはいいが、簡単に意に沿う再就職先があるのだろうか。これが就職氷河期だったら、日本中が大笑いになっていたであろう。人口減少、少子高齢化、そしてコロナ禍をへて世界経済の立ち直り局面による労働力不足の現状だから一応成り立っている。しかし、大きな経済的危機となればこのような楽観的見通しは吹っ飛ぶ。
 何よりも資本側の論理は明白で、解雇規制緩和に触れていないことに不満が残るとされている。ちなみに、新自由主義的労働政策推進の旗振り理論家である矢代尚宏は、解雇の金銭解決が取り上げられてないことを批判している。
 また資本主義に特有の冷たい競争理論ではあるが、生産性を高めるために低金利の銀行融資等で、本来ならば倒産していてもしかるべき企業、あるいは生産性の低い企業、いわゆる「ソンビ企業」を淘汰するための金融政策の変更なども取りざたされている。この場合労働者は否応なく解雇されるであろうが、新たな雇用先が都合よく見つかるであろうか。ようするに、骨太改革にいう労働力移動の円滑化とは、ひたすら労働者の生存を不安定にするものでしかない。
 さらに、ジョブ型制度にかんしても、一部には労働運動の側でも礼賛する見解もでているが、労働強化につながらないか。同一労働同一賃金論が、低い方に合わせるかのように進んでいることを見ても、労働組合が弱体化している現状では
労働者の期待するものが生まれてはこない。
 分厚い中間層形成では、中小企業支援で賃上げのすそ野を広げる、最低賃金全国加重平均を1000円に引き上げる。そしてお得意の「資産」形成論、少額投資非課税制度(NISA)の拡充、家計金融資産を活性化するとされている。分厚い中間層形成はかつて民主党政権下でもうちだされたことがあるが、本来は賃上げと高額所得者への所得税引き上げによって格差を解消することによって達成される。自公政権や維新・国民民主にそのような方針はなく、絵に描いた餅に終わる。民主党政権では、所得に関係なく支給される子ども手当など先進的な政策も提起したが、分厚い中間層というからには再分配、格差解消、あるいは法人税引き上げなどの政策だけでなく、闘いも呼びかけなければならなかった。闘いなくして格差は解消しない。
 経済・食料安保では、国内投資と拡大が強調される。北海道でラビダス(政府肝いりの日系半導体メーカーの共同出資)やTSMC(台湾積体電路製造)の熊本工場、広島のマイクロン・テクノロジーなどに2兆円規模の補助金を投入する。先端技術をめぐる米中対立の激化を反映したものである。また、コロナ禍やウクライナ侵攻での経験からサプライチェーンの強化、農産物の自国生産強化を挙げている。これは、最適地生産を軸とした新自由主義と一体となったグローバリズムとは趣を異にする新しい流れではある。もちろん、米中対立の激化という政治的対立、覇権争いも背景にある。食料自給率の引き上げは、国民的要求・課題であった。その課題は、多国籍企業の求めるものとは異なるものであり、おろそかにされ、つねに農業は犠牲にされてきた(TPP反対闘争を想起せよ)。農業に従事する若者も減った。したがって、事情が変わったからさあ農業へと呼びかけても効果は期待されない。抜本的に食糧自給率を引き上げるための小手先でない抜本的な政策が求められている。

 迷走の岸田政権と今後の政局
 岸田政権発足直後は、それまでの安倍政権の強権的政治に嫌気をさしていた国民のなかに期待感を生み出した。とくに、発足当初に掲げていた「新しい資本主義」では、金融所得課税の強化など分配政策が重視されており、安倍政権からの転換かと、かすかに期待を集めるところもあった。また、日銀の黒田総裁の任期切れ退職もあり、この点でも「アベノミクス」からの離脱かと期待を集めた。
 しかし、統一教会問題での、安倍本人はもちろん教団に関わった閣僚や議員に対する処分は迷走し、支持率をさげる。そのうえ、自民党の党内派閥で最大を誇る安倍派との調整、財界や党内圧力の下で最大の売りであった再配分強化政策は消えてなくなり、骨太方針2022では官民一体の投資・成長重視に変容してしまった。そして、冒頭で述べたように、現実に進められているのは安倍政権が積み残した政策の実現でしかない。
 それでも、お得意の外交政策で点数を稼ぎ、広島サミットの「成功」をてこにして解散総選挙に打って出ることを狙ってはいたと思われるが、息子の不祥事やマイナンバー・カードの様々な不祥事によって、内閣支持率は今は下がるところまで下がっている。それでも、今後内閣改造が予定されており、9月の臨時国会での解散の可能性も否定できないと言われている。
 他方、問題は立憲野党である。岸田政権の支持率が下がっても、立憲民主党の支持率は維新に抜かれてしまった。ここにきて立憲民主党も共産党を含む選挙協力に前向きになりつつある。
 これまで述べてきたように、政治的に対立する多くの課題の決着は先送りされている。立憲野党には一層の奮起が求められているのである。
     (つの きみお)



●月刊「科学的社会主義」No.303 2023年7月号
       23年春闘総括と課題
                               小林晴彦

 1、春闘を取り巻く情勢と政府と資本の構え

(1)コロナ禍もあって解雇、雇止めが昨年末までに累計16万人を数え、そのうち非正規労働者が10万人を超えた。完全失業率と休業者数は2・58%、210万人余で、休業者数は300万人を超え、更に悪化することが予想される。
 総務省の「労働力調査」によると、2022年平均の正規労働者は3588万人だが、非正規労働者は2101万人で、雇用労働者の実に36・9%を占め、しかも、その6割近くが女性である。非正規労働者の平均年収は216・7万円(男性241・3万円、女性195・4万円)であり、困窮や生活不安からの自死(特に女性)も急増している。
(2)物価上昇が深刻化する中、新年早々、岸田首相は企業。


側に対して「物価上昇を上回る賃上げをお願いしたい」とし、経団連は「賃上げは、『企業の責任』」とまで言った。政府が経営側に賃上げを強く要請する「官製春闘」は、安倍政権下の2013年春闘から続いている。
(3)春闘はそもそも大企業中心で、大企業の正社員の賃金があがっても、下請け・中小零細企業や非正規雇用には波及せず、日本の平均賃金は全く上がっていない。国税庁発表の2021年分の「民間給与実態統計調査」によると、給与所得者の平均年収は約443万円であり、約30年前の1989年の平均年収約452万円から減っている。これは国際的に見ても異例のことである。
(4)この間、アメリカでは200万円以上も平賃金が増え、韓国では平均賃金が約2倍になった。日本の平均賃金は、2013三年に韓国に抜かれ、2016年にはスロベニア、2020年にはリトアニアと、中東欧諸国にも次々に抜かれ、最近の円安為替水準の影響もあり、OECD34か国中の28位である。
(5)岸田政権は「新しい資本主義」と「景気と分配の好循環」を掲げたが、アベノミクスの焼直しに他ならず、コロナ感染拡大や円安で経済の「成長や分配」はなく、物価高の中、労働者や年金生活者等の生活は苦しくなるばかりだ。
(6)経団連は経労委報告(経営労働政策特別委員会報告)で、「人への投資」を通して賃上げと中間層の建設につなげるというが、企業は総人件費を抑えつつ、若者への分配を手厚くするだけだ。また、「連合」を抱き込み、「人への投資」や「基本的な考え方」の一致を強調する。労使は「闘争」ではなく、未来を「協創」する経営のパートナーだと述べる。
 その一方で、慢性的な長時間労働や残業代の出ない裁量労働制など、「働き方改革」の名のもとに、労働条件は悪化するばかりだ。フリーランスや業務委託など、労働法規上、労働者として認められないものまで横行している。
(7)「企業全体の利益剰余金(21年度)は対前年比6・6%増の516・5兆円と10年連続で増加した」と経労委報国は記し、利益剰余金=内部留保を、コロナ禍でもため込んでいた。今ほど労働者側か大企業に内部留保を吐き出させ、大幅賃上げを闘い取ることが求められている時はない。

 2、労働組合の春闘方針
①連合
 連合は、今春闘で5%程度(定昇3%十物価上昇分2%)の賃上げを要求。中小労組の要求の目安として1万500円から1万3500円の賃上げ、時給1150円以上の企業内最賃協定の締結などを方針化した。芳野友子会長は政府の「新しい資本主義実現会議」や「GX会議」に出席するなどして、政財界の代表に協力を求め、「政府・政党、経済界とスクラムを組み、全ての国民が豊かさを感じられる、希望ある未来を取り戻す」と述べ、春季労使交渉の役割を強調。これに応えて自民党では、岸田首相がメーデーに出て挨拶するなど、労働者の分断と取り込みを図っている。経団連もまた、連合を「経営パートナー」と位置づけ、話し合い解決を示唆している。

②国民春闘共闘委員会
 第一の柱、大幅賃上げ・底上げの実現。
  統一要求
   1.誰でも、どこでも時給1500円以上、月22万5000円以上の産業・企業内賃金。
   2.大幅賃上げ。「物価高分十月2万5000円以上(8・16%)」「物価高分十時給150円以
     (10・6%)」の賃上げ。
  3.雇用形態や男女間格差の根絶と均等待遇。
  4.法定最低賃金の全国一律1500円以上への引上げ。
 第二の柱、生活圏での「公共を取り戻す」ための運動を地方組織を先頭に、組合員との共闘や23統一地方
  選の政策等に反映させ、闘う。
 第三の柱、憲法が生かされる社会を構築する。
  「防衛三文書」の改定による軍事一辺倒の岸田政権の政治を止めさせ、改憲阻止、平和を求める闘いへの組
  合員参加。闘う労働組合のバージョンアップを図り、全ての単組でストライキ権を確立し、ストライキを背
  景にした団体交渉に取り組む。

③全労協
 23けんり春闘方針
 1.目標と要求
  誰もが安心して働ける職場・暮らせる社会を’・ 8時間働けば生活できる賃金と社会を! どこでも誰でも
  時給1500円以上、月額25万円以上の賃金保障を! 月額2万5000円以上の賃上げ。時間給労働者
  の時間給の150円以上の賃上げ。物価上昇分を上乗せした賃金。
 2.闘い方
  イ、すべての組合員が参加する大衆的ストライキ等、職場・地域で闘い、生活できる大幅賃上げを実現する。
  口、コロナ禍による失業・貧困に対し、全国労働相談の
   実施と協力。
  ハ、以下の課題での全国キャンペーンの実施。生活破綻を食い止める生活一時金の獲得と大幅賃上げの実現。
  二、その他、社会運動として、九条改憲阻止、原発再稼働阻止、ジェンダー平等の揺り戻しの禁止、外国人
   労働者・移住労働者の基本的人権の確立を追求。
 3.スケジュール
  2月17日(金)にけんり総行動を実施し、全ての争議の勝利を目指し、経団連への要請と抗議行動を行う。
  3月の行動。賃上げ実現のためのストライキ。沖縄闘争。移住労働者のための三月行進(マーチーインーマー
   チ)。フクシマ連帯キャラバン。経団連前集会。さよなら原発1000万人アクション等

 3、春闘の賃上げの状況
(1)大企業では満額回答が続いた。中小企業や非正規の雇用労働者には、一部で高額回答があったものの、全体的には物価上昇を補填できる賃上げには届かず、実質賃金の上昇を勝ち取ることはできなかった。そのため、特に非正規雇用労働者の生活は苦しくなるばかりである。
(2)連合が5月10日に発表した春闘回答集計結果によると、定期昇給込みの賃上げ額は加重平均で1万923円、3・67%増(うち300人未満の中小労組は8328円増、3・35%増)であった。定期昇給を除いた「賃上げ分」(=ベースアップ)は6047円、2・14%、うち中小組合は5104円、2・0%であった。有期・短時間・契約等労働者の賃上げ額は、加重平均で月額8849円であった。
(3)厚生労働省が6月6日に発表した実質賃金は、対前年同月比3・0%減であった。賃上げ率3・67%では、物価上昇分を補填すること出来なかったことを、政府統計も認めているのである。
(4)総務省が発表した2022年度の消費者物価指数(2020年を100とした数値である)は、食料品が104・5、光熱水道費が116・3、総合指数が102・3であるが、物価の本格的上昇は今年度にはいってから始まっており、今後も継続することが予想されている。
(5)非正規雇用労働者の賃上げについては、5%を上回る回答を引き出しているところもあるが、一部の産業、企業規模が大きいところ、労働組合が組織されているところに限定されており、全体的には低調である。格差は是正されず、むしろ拡大したといえる。
(6)連合の春闘は、自ら賃金闘争を闘うのではなく政府のお声掛かりで賃上げを行うという「官製春闘」であり、政府の所得政策の枠内での分配論である。連合の芳野会長は、物価上昇下の生活安定、『人への投資』の必要性、人材の確保・定着への効果などを訴え、賃上げは月例賃金にこだわった組合の要求と粘り強い交渉の結果であると評価する。また、交渉に真摯に応じ社会の期待に沿った回答を決断した経営側にも敬意を表する。「政労使の話し合い解決」路線を自画自賛する始末だ。

 4、23春闘の取り組みと今後の課題
(1)企業の支払い能力や生産性に目を奪われての戦略戦術では、闘いの原動力にはならない。要求の根拠である生活実態(生計費=労働力の再生産費)に基づく要求をはっきりさせるためにも。国労や郵政ユニオン等で粘り強く取り組まれている「生活実態アンケート」と要求討論が重要になっている。「生活要求額」に込められた現場労働者の怒りを闘いに反映させ、地域・産別を超えて広がりを追求することが重要である。
(2)1997年来、実質賃金が目減りし続け、世界に例を見ない低賃金に抑え込まれている原因は、労働組合の右傾化によるストライキ(争議行為)の激減にある。『賃上げできない』のではなく、真剣に賃上げしようとしなかったのである。来年の24春闘は、原点にたち返り、統一ストライキを軸に、物分かりのいい労働組合から、時には断固として要求を貫く存在感ある労働組合へと、飛躍することが必要だ。
 郵政ユニオンの全国指名ストの実施による組織強化の成果や、国立病院の独法化以来初めて医療現場での指名ストを実施し、多数の看護師が組合に加入した日本医療労働組合連合会の成果等に学ぶことが必要だ。
(3)我々は、現場から春闘を再構築すべく、「物価高騰に対抗し、雇用と生活を守ろう!」「ワーキングプアを一掃し、ボトムアップの賃上げを!」との労働運動研究会の呼びかけに呼応して、正規・非正規、民間・公務の労働者が一体的に闘う23春闘を目指し、全国的な共通闘争課題として、最低賃金の再改定と引上げ、会計年度任用職員の待遇改善の闘いに取り組んできたが、まだ不十分で影響力を広げきれずにいる。最低賃金大幅引き上げキャンベーン委員会(下町ユニオン、全国一般労働組合全国協議会、全国生協労働組合連合会、郵政産業労働者ユニオン)は、物価高の中で昨年10月に、最賃改定後から、「最低賃金再改定」と「ランク制廃止・全国一律制」を求めて、3回に渡って厚労省に要請し、全国28都道府県の労働局長に60を超える要請や働き掛けを行ってきた。
 最低賃金の引上げの実現は、最低賃金ギリギリで働いている多くの非正規雇用労働者にとって即時の賃上げを意味し、すべての労働者に強制的に適用される。最賃引上げの影響は中小・零細企業にとどまらない。従業員1000人以上の企業でも「最低賃金を下回るため、賃金を引き上げる」企業が64%と、最も多くなっている。
 残念ながら、最低賃金の再改定は実現できず、年一回、三要素を考慮して、正規労働者の賃上げの後追いで決めるという現行制度の枠組みを打破出来なかった。また、都道府県のランク制度を現行のA~Dの4段階からA~Cの3段階に見直すに留まった。それでも、これが今夏から適用されることが決まった。これは運動の成果である。引き続き運動を強化することが求められている。
(4)労働組合の組織率は約16・5%である。未組織、とりわけ非正規労働者の組織化が課題である。非正規雇用労働者の相談・加入の受け且となっている各地の個人加盟労組(ユニオン)が、「非正規春闘2023実行委員会」を立ち上げ、賃金の一律10%引上げ要求の方針を決定し、「大手」企業を中心に、飲食店や学習塾・語学学校、コールセンターなどを運営する会社(非正規雇用労働者を多く抱える産業)に、「春闘」として賃上げ要求を申し入れた。非正規雇用労働者の「賃上げ相場」を形成しようという試みであり、我々は支持する。また、エキタスなどが、昨今のインフレをうけて、最低賃金1500円を求めるオンライン署名キャンペーンを始め、厚生労働省への署名提出や最低賃金1500円の実現を訴えるデモ等新しい試みを展開していることにも注目したい。
(5)正規・非正規、民間・公務の労働者が一体的に闘うためには、企業別労働組合の発想、大企業労組主導のトリクルダウン型の発想を払拭する必要がある。企業を超えた同一労働同一賃金の実現などの取組みが重要である。最低賃金引上げのように下からの横断的な運動の展開(ナショナルセンターを超えた共闘・共同の運動)と労働者間の団結を進めていくことが重要である。
     (こぱやし はるひこ)







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