科学的社会主義の展望 2018年1月~6月
●月刊「科学的社会主義」No.241 2018年5月号
99%のための政治を
社会主義協会事務局長 福田 実
1、世界で最も豊かな8人が世界の貧しい半分の36億人に匹敵する資産を所有
まず、国際協力団体「オックスファム」の2017年版(2014年1月16日)と2018年版の報告(2018年1月22日)を見て格差・貧困の実態と背景を考えたい。
2017年版では標記の言葉と共に、次のことが紹介されている。「1988年から2011年にかけて、世界人口の最も貧しい一割の人々の収入増は65ドルにすぎませんでしたが、同時期に最も豊かな一割の人々の収入増は、11,800ドル、彼らのおおよそ182倍も増加しています」「納めるべき税金はなるべく回避する。支払うべき賃金はなるべく抑える。カネの力で政治を動かし、経済のルールを自分たちの都合の良いように書き換える。こうした方針をとる大企業や大富豪が、格差の拡大を加速させています」「世界は今、九九%のための経済を必要としています。経済を私たちの手に取り戻し、『ヒューマン・エコノミー(人間らしい経済)』を実現しなければなりません」云々と。
2018年版報告書では「資産ではなく労働に報酬を」と題して、オックスファム・インターナショナル事務局長ウィニー・ビヤニマ氏の発言が紹介されている。「昨年生み出された富の82%を世界の最も豊かな1%が独占。世界の貧しい半分の37億人が手にした富の割合は1%未満でした」「世界の億万長者の資産は、2010年以降、毎年平均して13%増加しています。一方で、一般的な労働者の賃金収入は、毎年平均して2%しか増加していません」「世界のグローバル企業CEOの報酬水準は突出しています。例えば、バングラディシュの繊維工場で働く労働者が一生をかけて稼ぐ賃金に相当する報酬を、世界の5大グローバルファッションブランドのCEOは、たった4日間で手にしていることになります」。
「オックスファムは各国政府へ次のことを提言します。■株主への配当や経営層への報酬を制限し、全ての労働者に対して、最低賃金が生活賃金であることを保証すること(中略)■富裕層が相応の税金をきちんと納税するための施策を導入すること。累進課税制度の導入と租税回避のための取り組みを加速させること」「億万長者の増加は、経済的な繁栄の現れではなく、破綻した経済システムの症状です。私たちが日々着る洋服を作り、使う携帯を組み立て、食べるものを作る人たちは、安価で安定した消費財を確保するため、企業や裕福な投資家の利益増大のため、搾取されているのです」「人々は、変化を求めています」云々と。
2、日本の上位40位の合計資産は下位世帯の52.5%に匹敵
日本の実態はどうなのか? フォーブスが報道(17年4月)した「日本の長者番付上位10位」の合計資産は、1位の孫正義氏(ソフトバンク)の約2兆2640億円をはじめ10位までの合計額は9兆8840億円である。前年と比較して1兆3000億円増加している。(『データブック2018』)富裕層上位40位までみると、17年の資産合計額は15兆9260億円で、12年の7兆6605億円の2倍超も増加している。12年の40位までの合計資産は下位世帯の27.9%に匹敵していたが、17年のそれは52.5%と匹敵する。(『KOKKO』編集者、井上伸氏)
他方、労働者の実質賃金は2015年平均を100とすると、1997年の109.5以降下がり始め16年は95.3である。実に17.2ポイントも下かっている。正規労働者の平均賃金は486万9千円であるが、2061万人に増加した非正規労働者(うち「1年を通じて勤務した給与所得者」)の平均賃金は172万1千円であり、正規と非正規の差は315万円にもなる。この収入に、消費者物価の上昇があり、社会保険料や税金が差し引かれると、実際に使えるお金(可処分所得)は大幅に引き下がるのである。
こうした働く者の苦難の中で、大企業や富裕者は「この世の春」を謳っている。働く者の汗の結晶でもある大企業の「内部留保」は417兆円である。5500万人の労働者で割れば1人当たり約760万円の拠出となる。17年の配当金は12兆8000億円で過去最高である。役員報酬は1位のSANKYOで平均5億8150万円、100位のヤマハ発動機で平均6722万円にもなる。
財界(資本家階級)は貪欲である。法人実効税率は1995年時の50%を引き下げ続け、安倍政権で29.74%に
し、いまは[25%程度]を要求する。租税特別措置法の拡‐充など様々な減税、安倍政権のエセ「働き改革」、日米同盟の強化など安全保障体制の強化なども要求する。TPP11も高く評価している。逆に、消費税は「予定通り10%へ」「社会保障の抑制」等々も要求している。
3、私たちの展望―社会主義協会新テーゼ
いままで述べた情勢を私たちの『協会新テーゼ』では次のように触れている。
「多国籍資本は、一国の経済、地域の安定・発展を一顧だにしない。そのため、本国では国内の切り捨てられる部門との矛盾が拡大し、進出した地域では資本の活動の自由を要求して現地人民との矛盾が激化する。大競争のもと、多国籍資本は地球規模での最適地生産を求めて激しく移動し、労働条件の切り下げ競争は、本国であるか進出先であるかを問わず、地球規模で広かっている。海外権益の防衛を理由として、多国籍企業本国の軍事大国化かすすみ、アメリカ主導の軍事同盟が強められている」「今や資本主義体制の下では、人類が達成した生産力は過剰なままで有り、人々の生活水準を引き上げるのではなく、世界のどこかでバブルを生み出し、そして破裂させるだけである。世界人口の2割が資源の8割を消費する一方で、世界の半分は飢えている。これらはまた、民族間・宗教間の摩擦を生み出す土台である。不断に生み出される社会に対する不満や怒りを排外主義・ナショナリズムに転化するのは支配階級の常道である。これら資本主義の矛盾を止揚する体制こそが、社会主義である。社会主義の成就なくして、人類の恐怖と貧困、生存の不確かさからの解放はない」と。
オックスファムは毎年1月開催のダボス会議に先がけて報告書を発表し、ダボス会議に参加する世界の政財界等のリーダーの「良心」に呼びかけている。それはオックスファムの「貧困を克服しようとする人々を支援し、貧困を生み出す状況を変えるための活動」に必要である。
私たちはそのためにも、真に99%のための政治・経済を追求する。99%の団結の強さに比例してのみ、資本家階級は譲歩する。そして私たちはその先を考え、進む。
4、「アベ政治を許さない」
安倍首相の改憲策動は18年、19年が正念場である。「発議」「国民投票」が予想されるが、この問題と正面から対峙できるのは「市民と野党の共闘」以外にない。だから、全国の仲間が、市民と野党との共闘に力を注いでいる。
3月16~18日の報道各社の世論調査では、森友学園疑惑における真相隠ぺい(特に決済文書の改ざん問題)は、安倍内閣の支持率を30%台に急落させ、支持と不支持を逆転させた。働き方改革の世論調査(朝日新聞18年3月19日)では、「安倍内閣が進める働き方改革に『期待する』は、1月調査の46%から28%に減り、『期待しない』は、44%から61%に増加」と報道されている。「アペノミクスによる景気回復の実感はない」は85%に達している(JNN世論調査17年10月)。今回の安倍政権支持率の大幅な低下は、森友疑惑の「文書改ざん」が大きな要因と報道されているが、裁量労働制における「データ偽造」、そして「原発再稼働」など世論を無視した政治も影響している(そして防衛省の「イラク派兵部隊日報隠蔽」も浮占。
ところで、全国で活用された「アベ政治を許さない」の文字は今年2月に亡くなった金子兜太さん(かねことうたさん)が揮毫したものである。「安倍9条改憲NO!」も含めて、最大の対立軸が「安倍政治」を「許すか許さないか」である。ここでの市民と野党の団結・強化が必要であるし、私たちも含めその立場で闘っている。当面の大衆の最大の願いに最大限応えてこそ。新社会党の組織力・財政力・影響力を大きくすることができる。
私たちの任務はそれに留まらない。「自民党政権」を終わらせ、「憲法を生かす連合政権の樹立」、そしていまは、大きな対立軸でなくても、富の偏在を根本的にただす視点と活動が必要と思う。
幸い、その努力を先進的に行っている仲間もいるし、それに学ぼうとする仲間は全国にいる。例えば、過日の社会主義協会総会等で、(随分前の話でしたが)熊本の取り組み紹介「向坂逸郎氏の講演会を小学校体育館で構え、戸別訪問を行い700名~750名の参加者が集まってくれた」があった。近畿ブロックでの社会主義ゼミナール開催に向けた取り組みと成果の報告「150人の目標、SNSの活用(知らない人20名)、135名結集、外から55名など」があった。可能な限り大きく構え、成功のために議論・計画・行動を行い、そこの教訓を次回に生かす作風である。何もしなければ失敗はない、教訓もないし、前進もあり得ない。理論の正しさは実践によってのみ検証される。
徳島の「駅で電車を待つ高校生へのアンケート」の取り組みと「結果から元気をもらった」報告。千葉県長生村議選を控えた候補者の「村民アンケートからの政策づくり」‐も学ぶことが多い。
再掲載だが、「我々は、大衆が最も望んでいることを言葉に現すことを学ばねばならなかった。我々が大衆を理解し、また大衆が我々を理解するようにするのを学ばねばならなかった。大衆を我々の側へ獲得するのが目標だった」(クルプスカヤ『レーニンの思い出』)を吟味しつつ、99%のために議論し、計画し、大胆に行動しよう。 (ふくだ みのる)
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