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展望

科学的社会主義の展望  2021年7月~12月


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●月刊「科学的社会主義」No.284 2021年12月号
    12万都市で「無所属・市民派候補」を擁立し
    たたかった意義を考える

                             社会主義協会代表   石川一郎

 擁立し、たたかうまでのあらまし
 10月19日公示、31日投開票の衆議院解散総選挙と同じ月の前半、山形県鶴岡市では4日告示、10日投開票で市長と市議会議員の改選選挙が同時日に行われた。
 定数32から4減の定数28のなか、政治にはまったく素人で選挙運動などにかかわったこともない「無所属・市民派候補」を擁立し、黒子になってたたかい、中位より若干上の12位で初当選を果たした。
 鶴岡市は市政施行以来、歴代市長は保守系によって独占されてきたが、4年前自民党現職市長に非自民系の候補者が挑み、現職の失政もあって大差で勝利した。同時に行われた市議選では新社会党推薦で三期目の渡辺ひろい氏が中ほどより少し上で当選を果たしたが昨年、病魔により急逝した。
 議会は自民・公明が過半数を制し、新市長への敵対的議会対応は眉を顰めるほどの激しさだった。次の改選期には市長派議員を増やそうと考えていた矢先の急逝に尸惑いながら、新たな女性議員擁立の模索を始めた。
 そこで、「非自民の立場で、非自民の市長の側に立てる人」を選考基準にし、自民党支配政治を憂い、非自民市長支持で懇意にしている50代半ばの女性税理士、70代前半の診療からリタイアした男性医師、同じく70代そこそこの大手楽器メーカーに勤め定年後、故郷鶴岡に戻られた男性と私の5人で「徒党」を組み、選考範囲に入る該当者で、しかも女性はいないかと情報交換会を数回重ねた結果30代前半と50代後半の女性二人が俎上に上った。
 個別にお茶会にお誘いし世間話をしながら、社会への向き合い方、大衆性、家族関係、政治へのスタンスなどそれとなくお聞きした結果、夫婦で山菜問屋を営んでいる自営業の七歳女性に全員一致で白羽の矢を立てることになった。
 彼女はビックリ仰天、青天霹靂の様子だったが、私たちの体面を気づかつてか即座には断らず、辛うじて考えさせてほしいとの返答を受けた。そこから粘り強く説得と不安に対しての説明を行い、半年後の10月、考えに考えた末立候補への決意を頂いた。
 鶴岡市は国内でも数少ないユネスコ「食文化創造都市」の認証を得ており、彼女は鶴岡ユネスコ創造都市ネットワーク策定委員、食文化映画祭実行委員長、スローフードジャパン山形CVメンバーで、家業ともかかわりのある「食文化」領域の活動家であった。
 また、中・高と吹奏楽部に所属し現在も鶴岡市の吹奏楽グループとのかかおりがあった。世話好きの叔母さんタイプで、町内の子供会から発して町内会活動(350世帯)にも積極的に参加していることもあり、立候補の決意を町内会長さんにお伝えしたら町内会三役会に報告され、こぞって応援するとのお話を戴いた。
 11月に「遠藤はつ子後援会」を立ちLげ、体制作りに着手するとともに我が党員同志は黒子になって選挙戦最後までその下支えをした。

 候補者擁立は固定観念に拘らず柔軟志向で
 本稿は擁立工作から後援会づくり、選挙本番までのたたかい方を述べることが目的ではない。何故わが村で、常識とする候補者像とかけ離れ、かつ政治活動に関与したこともない、ズブの素人を擁立し戦ったのか、その意味をともに考えたいのだ。
 一般的に候補者擁立を考える場合党員の中からとなるが、初老から後期高齢者主体の党員構成から客観的に擁立は困難、労働組合員からと考えても組合の政治方針と我々の路線はどうも一致しない、党レベルで候補者探しをしても交友関係が狭いことや市民運動とのかかわりも薄くこれも困難、さらに労働組合の推薦がないとたたかえないなどと考えれば断念となる、これが通常パターンである。
 我々は過去に幾度となく候補者を擁立したたかっだノウハウはあるが、擁立条件に適う候補者への拘り、労働組合の推薦・支持がないとたたかえないという固定観念がある。
 私は15年前市議会議員を64歳で勇退したが、この固定観念から後継者を擁立できなかった。この悔しい思いの中で試行錯誤する間に私の思考回路は柔軟になり過去2回立候補し300票不足で落選していた市民活動家候補(故渡辺ひろい氏)を担ぎ、これを新社会党が推薦し平和センター加盟労働組合の推薦も得てたたかうことにした。党員はもちろん私の選対を構成していた人たちが全力でたたかった結果、1500票ほど上積みしトップ当選を果たした。ひろい氏は東北大学薬学部卒業後、厚生省厚生技官を務めた薬剤師で、漢方に造詣を深め、30代前半で帰郷し漢方に特化した薬局と鍼灸、指圧院も開業していた。
 鶴岡市の水道水は全量地下水だったが、これを川の表流水から取水する広域水道に切り替わる時、彼女は反対運動の先頭に立った経歴がある、反自民が明確な市民活動家だった。
 日常生活を営む中で理不尽と感じ、それに反対の意思表示とともに行動に立ち上る市民活動家はいる。素朴な思いと願いから出発したこの活動家は、労働組合を知らないし政治との縁も薄い。政治に利用され翻弄され嫌気がさし、そこから逃避する人もいる。
 きっちりと一致点を求めるより大筋で方向性さえ確認できれば、余り細々した条件は言わず、政治結社と政治活動とは、労働者運動・労働組合とはなどについては応援してくれた労働者や私たち党員との交わりの中で学び育つものと考える。
 今次総選挙で社民党と政策協定を結びともにたたかったが、現段階ではお互いが及び腰でお付き合い程度の域から出ていない。我々は搾取構造の全面廃絶、一方は資本主義下における分配構造の改変であり、究極のゴールは明確に違う。しかし、基本政策の日米安保破棄、憲法擁護、反原発などで一致するし、他の主要政策でも一致する点は多い。また重要政策で一致しない政党とも反自民・野党共闘で大同団結したたかっている。わが党の中には社民党との政策協定と共闘に異議をとなえる人たちもいるが、国政レベルでは結構柔軟志向で未来の終着点と展望は違えども現実的な反自民・改良闘争に取り組んでいる。

 区・市町村議員選挙は主導権の下にたたかえる
 国レベルで我々が主導権をもってたたかうには党全体が老齢化した。しかし、区・市町村レベルの選挙なら培ってきたノウハウと人脈を駆使すればたたかえるし、勝てる。
 かつてのように労働組合が組織内候補を担ぎだたかうケースは少なくなっている。労働者の生活と地位向上、労働者の権利擁護を基本とするよりも、企業の利益擁護を密かな意図として会社と共闘するケースも散見される。
 ここしばらくは雄々しく・猛々しく赤旗を靡かせ労働者の権利と生活擁護のためにスト権を賭けたたかい、勤労諸階層主体の政治体制を求める運動は望めない。それと比例し労働組合が組織内候補を擁立することも少なくなった。
 だとすれば、私たちは居住する生活の場でその矛盾に目覚め市民運動などを担っている人々や、そこまでは行かないがその周りにいる人の中から、我々が主体的にかつ反自民の感覚を持つ市民と協働して候補者を発掘し、たたかう方針の確立が求められる。当選がゴールでないのは当然で、本人はもちろんその周りにいる意識された人々と学習会を持ち、議員活動にかかわりながら政治経済の仕組み、子育てと教育・福祉、労働者と労働組合などを学び合い、矛盾の根源を解明する活動を行わなければならない。その学習と市民から寄せられる生活に密着した切実な相談と要求が相まっで、良質で社会の変革を求める議員がつくられると確信する。
 地球温暖化の危機的状態、食品の安全、子育てと教育、老後福祉など女性の方が生活に密着した課題により敏感と思う。ジェンダー平等、女性議員をもっと増やそうとの意識は強まっている。誰かが擁立した良さそうな議員候補者との共闘よりも、主体的に候補者をつくり、周りを巻き込んでたたかい、勝利する。そしてともに仲間となって学習会を行い、成長しスクラムを組める所まで高めて行くプロセスを展望しては如何か。

 日本人の精神性に流れるものとは
 主題はほぼ書き上げたが依頼文字数に余白がでたことから、世迷言のつもりで書いてみた。
 25年ほど前、懇意にしていた弁護士から言われた言葉が妙に頭に残っている。法学部卒業後、司法試験を5回失敗していた頃、偶然手にした本に聖徳太子が唱えた「和を持って尊しとなす」の言葉即ち「協力、協調、協和」が大切との言葉に出会った。
 日本社会の有りようはこれに依拠して組み立てられていると思い、その考え方で司法試験の答案に臨んだら合格したと。その見解が正しいかどうかはその筋の専門家に委ねるとして[礼儀と名分を守り秩序を重んじる、争うを嫌い、人とは相睦あう]この聖徳太子の儒学、仏教に基づく考え方【和】が我々の精神性に深く溶け込んでいると思うが、どうだろうか。これが人として生きる大切な精神だとも説いている。[自我を持て、人と違うを恐れるな]とは真逆である。
 この精神性の上に科学的社会主義の理論が乗っていると考えれば大きな揺れが襲ったとき、行動←対処に表層雪崩現象が起こり得るのかと妙に納得した。社青同、党、協会とそれなりに理論学習と戦いを経験した同志が、社民党・立憲民主党と流れる現象は、血を流す戦いに裏打ちされた理論では無い弱さはあるとしてこの精神性にも私は着目したい。
     (いしかわいちろう)


●月刊「科学的社会主義」No.283 2021年11月号
    闘いの到達点を確認し、来夏の参院選へ
                           社会主義協会 事務局長   福田 実

 自民党総裁選は、自民党が来る衆院選で、不人気な菅首相に代わり。勝てる候補を選ぶ選挙であった。そして、岸田文雄新総裁がきまり、自民党役員、首相指名・組閣・首相会見(10月4日)と続いた。この間の大々的な報道は無党派層等に大きな影響を与えた。その結果、自民党や内閣の支持率は上昇した(自民党支持率「毎日」9/18 +11%、「産経・FNN」9/22 十10%)。内閣支持率対不支持は「55・7%対23・7%」(「共同通信」10/4・5)、「45%対20%」(「朝日」10/4・5)となった。
 ジャーナリストの青木理氏は、既に9月8日の東京新聞で次の様に指摘した。「マスメディアは政局報道に踊り始めている。それを日々見せつけられれば、社会心理学用語でいう『単純接触効果』は確実に生じるだろう。繰り返し接すると奸感度が高まり、表紙を変える清新効果も表れる(中略)それこそが自民党の狙い(中略)その片棒をかつぐことになるメディアはどこまで自覚的か」と。
 「市民と野党の共闘」は、こうした政治情勢の中で、10月19日公示、10月31日投開票の衆院選を自公政権、維新等と闘っている。

 1、世論は、安倍・菅内閣の路線継承に否定的だ
 朝日新聞の「世論調査のトリセツ(9/17)で「総裁選安倍路線継承をどうみる?」と題して、安倍・菅路線の継承に関し質問(9/11・12)している。「引き継がない方がよい」58%が[引き継ぐ方がよい]28%を圧倒している。無党派層は64%対19%である。

 東京新聞(10/6)は共同通信の調査として「継承(賛成)」24・1%、「転換(賛成)」69・7%と報道している。同様の質問に対し、朝日新聞(10/6)では『継承を』32%対「転換を」55%である。「表紙」を変えた新内閣や自民党への支持率は高いか安倍・菅政治の継承に関しては否定世論が圧倒的に多い。私たちの任務は、自民党や新内閣の安倍・菅政治継承の暴露であろう。

 2、自民党や内閣の新たな布陣と基本方向
 自民党の役員人事は安倍元首相の影が色濃く出ている。総裁は岸田であるが、彼は河野との決選投票で安倍の強力な支槓を受けた高市陣営の支持を受け新総裁になった。安倍の「傀儡」政権と言われる所以である。副総裁の麻生太郎、幹事長の甘利明は安倍の盟友だ。政調会長は安倍側近で改憲夕力派の高市早苗である。総務会長は安倍と同じ細田派の福田達夫(元防衛政務官)である。安倍・麻生の影響は免れないだろう。
 内閣人事での再任は、岸信夫防衛大臣(安倍の弟)と茂木敏充外相で、「日米同盟」を堅持する。内閣の要の官房長官は、安倍と同じ細田派の松野博一で、彼は教育勅語を容認し、「村山談話」「河野談話」の見直しを主張している。他の閣僚は総裁選で支援を受けた派閥への忖度で無名な「入閣待機組」「若手」が多い。能力は未知数であるが、例えば日本会議・神道政治連盟関係者が約半数を占め、過去の発言歴等を知れば知るほど期待ができない。「我々が背後にいてこそ岸田氏は政権運営できる。岸田氏は肝に銘じるべきだ」(細田派関係者、9/30東京)が岸田政権の背景と言えよう。
 岸田首相の10月4日会見で期待感を持たせたのは「新しい資本主義」で触れる分配戦略。「分配戦略の第一は働く人への分配機能強化、第二に中間層の拡大・・・」等ではないか。しかし、抽象的で具体策は見えない(*今後、実現会議で政策作成と言う)。分配の財源も不明確で、「金融所得課税も考える必要があるのではないか」と煮え切らない。他方「野党共通政策」は全体像を示す。「所得、法人、資産の税制及び社会保険料負担を見直し、消費税減税を行い、富裕層の負担を強化するなど公平な税制を実現し、また低所得層や中間層への再配分を強化する」と。
 岸田首相の曖昧さは、格差拡大の「アベノミクス」を評価し、9年間の安倍・菅政治への総括がなく、引き継ぐ政策、否定する政策を明確にできないことによる。
 しかし、それでは、「格差と貧困拡大」「疲弊した職場」「消費税10%」「改憲路線」「政治とカネ」「モリカケ・桜を見る会の隠蔽」「原発再稼働」「ジェンダー不平等」「軍拡と日米軍事一体化」「辺野古新基地建設」「核兵器禁止条約の不署名」「日本学術会議会員の任命拒否」「戦争法」等々は継続・放置される。

 3、「市民と野党共闘」の闘いから学ぶ
 17年衆院選の開票日翌日の10月23日、「市民連合」は見解を発表し、その中で、「衆議院で与党が3分の2を確保したことにより、安倍政権・自民党は近い将来、憲法改正の発議を企てることが予想されます」と、危機感を示した。
 しかし、19年夏の参院選で自公等の3分の2議席を阻止した。その後、国民投票法改定は許したものの、安倍・菅政権での改憲発議は阻止をしてきた。今回の最終目標は「政権交代」であるが、最低でも[改憲発議を許さない]3分の1超の議席、できれば「保革伯仲」であろう。
 [市民連合]が提起した「野党共通政策」には、4党が調印した。「政権構想」に関しては立民・共産が合意した、しかし、候補者調整は10月7日現在、未だ残されている。
 私たちはこの間の国政選挙から多くの教訓を学ぶことができた。それは自公に勝つため、野党共闘で闘ってきた汗の結晶と言える。簡潔に言えば次の様であった(再掲載)。
 ①自民党への信頼は小さい(絶対得票率は18%弱)。②野党と市民の共闘を名実共に成功させ、候補者の一本化を成功させる。そのために、各立憲野党が地力を高めながら共闘の実績と信頼関係をつくる。③客観的にある全国の、地域の、争点を自らの力で一層明確にする。④野党共闘が勝てるという選択枝を提供できれば、無党派層が投票に向かい、投票率が上がり、かつ無党派層の支持を得る等々である。
 事例は多い。①新潟では14年選挙に比較し17年は、投票率が10%上昇し、一選挙区を除き無党派層の65%~71%が野党統一候補に入れた。②19年参院選では「市民と野党共闘は一人区を中心に威力を発揮した。4野党の比例得票に対する統一候補の得票割合は愛媛・永江孝子氏(当)212%、滋賀・高田由紀子氏(当)163%、秋田・寺田静氏(当)155%、山形・芳賀道也氏(当)153%等であった。なお、秋田では自民支持層の23%、公明支持層36%を野党候補が獲得。愛媛では、全体の2割を占める無党派層から72%の支持を得ただけでなく、自民支持層の28%、公明支持層の44%を野党候補が獲得した。
 結論的に言えば、野党共闘は、各野党支持票の足し算を上回る票が可能になる。

 4、現時点の力関係では、「無党派層」が勝敗を決める
 さて、各級選挙で大きな影響を与える「無党派層」について、橋本健二早稲田大学教授の『世界』20年11月号論文を再び参照したい。多くの示唆があるが「無党派層」に焦点を当て簡潔に紹介する。
 橋本教授は「2016年首都圏調査データ(有効回答数は2351人ごを参考にし、「政治意識から抽出された3つのクラスター」を分析している。その3つのクラスターとは「新自由主義右翼」「穏健保守」「リベラル」である。
 まず、全体に占める比率は、「新自由主義右翼」10・2%、「穏健保守」38・9%、「リベラル」50・9%。そして、各クラスターの特徴を紹介している。
 「新自由主義右翼」は、①その64・5%が「貧困になっだのは努力しなったからだべ②「所得再配分を支持する傾向は(20・1%~44・4%)」と弱く、③66・3%が「中国人・韓国人は日本を悪く言いすぎる」、④75・1%が「日本国憲法を改正して、軍隊を持つことができるようにした方がよい」、⑥85・2%が「沖縄に米軍基地が集中していても仕方がない」、⑥46・3%が[経済に対する政府の規制はできるだけ少ない方がよい]と紹介し[新自由主義的な傾向がみられる]としている。
 他方、上記と対極にある「リベラル」は、①は、34・9%、②所得再配分支持は72・5%~54・5%(*二つの設問がある)、③は、31・8%、④は僅か1・0%、⑤は、1・4%。⑥は、27・1%である。
 最後の「穏健保守」は[中間派である]とし、①は、42・七%に止まり、②は、54・6%~39・9%、③は、37・4%、④は、16・3%、⑤は、21・6%、⑥は、29・3である。
 さて、本題の無党派層に話を戻す。首都圏調査の結果を見ると三つのクラスターの中の「支持政党なし」である。新自由主義右翼が33・1%に対して、穏健保守は56・9%、リベラルは69・9%も占める。
 橋本教授の結論は次の様になる「既存の野党は、本来は支持基盤であるはずの「リベラル」をとらえることに成功していない。「リベラル」の多くは支持政党を見つけられずに[無党派]となり、そのかなりの部分は投票所に足を運ぶことがなく、その票は宙を漂う」と。

 5、結語
 最後に山川均の言葉を紹介する(『社会主義への道』)。
 「(総選挙の勝敗を決定する)キャスチングヴォートを握っているのはいわゆる浮動票なのです]「すなわち国民大衆のなかで政治的関心が最も薄く、政治意識のもっとも低い部分によって、政治が決定されると言う事なのであります」「社会主義政権は、いつまでも浮動票に依存する状態から脱すること」と。それは、当面の目標「憲法を生かす連合政府をめざして」でも同じである。


●月刊「科学的社会主義」No.282 2021年10月号
    菅内閣交代、総選挙、野党共闘「第三極」
                           社会主義協会代表    石河康国

 菅総理。総裁の事実上の辞任を受け総裁選が始まった。本稿の校正段階では帰趨は窺えない。しかし自公政権の積年の悪政には何の責任もないような顔をした候補者たちが、「新自由士義政策の見直し」から[国家主義]に至るまで多様さを誇示している。だが[脱原発]や「森友再調査」を囗にしたものの取り下げ、結局は安倍政治の枠内に収まるのであろう。積極財政路線は共通し、保守色も示し各候補が役割を分担しながら、支持層を活性化させるのに成功している。自民党支持率は回復し、株価は上昇した。
 立憲4野党は8日に市民連合と「政策合意」⑴をした。安保法制などの「違憲部分の廃止」等、立憲民主への最大限の配慮をした内容であるが「消費税減税」は明記された。国民が不参加でも立憲が加わり、れいわも参加したことは、「連合」の掣肘の中では前進だ。しかし8日の共産党中央委員会で不破委員長が述べたように、政権問題と候補一本化の政党間協議はこれからだ。米申関係、朝鮮半島など激動する東アジア情勢に9条に立って野党はどうするかも霧の中である。
 こうしたなかで私たちは何を展望するか。
 総選挙に向け、新社会党は選挙区野党共闘の前進とあわせ、ブロック比例では社民党支援に努めている。両党の政策協定にも明記されているように、総選挙での協力は来年夏の参院選挙での本格的な共同を前提している。すでに社民党から新社会党と緑の党に、参院比例選挙における共同名簿方式の検討が提案された。新社会党は積極的に協議に応じ、緑の党も検討していると伝えられる。
 一方、各界の識者・運動家が「共同テーブル」⑵を発足させ、社民党が新社会党や緑の党などとの共同を提唱したことに呼応して動き出した。
 こうした動きは、社会党解体後の30年近い後退局面―その間新社会党は懸命に頑張ってきた―を、転換させる可能性を孕んでいる。そしてその可能性がひらけるかどうかは、総選挙で新生社民党がふみとどまれるかどうか、そして参院選で本格的な共同が実現し、結果を出すかどうかにかかっている。この好機を、護憲勢力の活路を開く一歩としたいと思う。
 私は本誌6月号「展望」でこう述べた。「われわれの世代にとっては最後の好機だと思う。・・・この機を活かすことに失敗しても、いつかは社会を変える政治勢力が形成されるに違いない。しかし次世代はしばらく困窮と戦争と環境破壊と政治への絶望を強いられる。困窮と政治不信は何を呼び出すかわからない。トランプというモンスターが暴れまわり、いまだにその勢力が権力を伺っていることを忘れまい。・・・次世代、次々世代に希望をもってもらいたい。そのために彼ら彼女らが生き生きと政治に関与する場を、せめてその芽くらいを、せっかくの好機に作り出したいものである」。
   *
 「新生社民党」が残ったことの客観的意味を考えておこう。立憲民主党と社民党はどちらも「社会主義政党ではない」―現代にける「社会主義政党」とは一体なにかは別として―から、同じ穴の狢だとみなすならば、「新生社民党」の存在意義は薄い。「改良主義政党」の左右の違いにすぎないのだから、立憲民主党の一翼をになえばよい。自公維の右翼保守勢力を制するためにはその方が有効だという考えもなりたつ。
 これに反して、社会主義運動の前進のための決定的な分水嶺は、護憲か否かであるとしたらどうだろう。「未来志向の憲法論議」や「日米同盟基軸」を綱領的立場にする立憲民主党は、いかにリベラルではあっても護憲とはいえない。そこへの合流を拒んだ新生社民党の存在意義は大きいことになる。この分水嶺のもつ戦略的意味を認識しなければならない。
 改良の要求自体には右も左もない。それを組織する側かどういう立場に立つかで決定的な違いが生まれる。8月末に「維新」が総選挙向けの政策を公表した。それには「消費税5%への2年間引き下げ」「ベーシックインカム(BI)と給付付き税額控除の検討」が記されている。これ自体は良いことだ。「財政健全化論」の呪縛もあり、消費税や生存権保障の財政出動に明快な政策を躊躇する立憲民主党の方が危惧される。けれども「維新」は「国会議員定数削減」「道州制導入」「憲法の非常事態条項検討」を明記している。BIなどの財源ねん出を囗実に、国から自治体にいたるまでの統治機構の集権化を企てる。その先に改憲があることは疑いない。同時に民衆の抵抗を抑え、分断し、わずかな給付と引き換えに社会保障水準を引き下げるのであろう。
 一方同じ時に社民党が発表した政策には「3年間消費税率ゼロ」とあり、その財源は「企業の内部留保課税」に求めるとしている。同じ改良の要求であっても、それを通じて大資本との対決に導き、民主主義の拡充に向かうのか否か。この決定的な分水嶺はせんじ詰めれば「護憲か否か」にあるといってよい。
 改良の要求は民主主義の筋が通らなければ、民衆の連帯を損なうこともある。大企業『正規』社員の労働条件向上のために、「非正規」労働者の劣悪な状態を放置する姿。原発関連産別労働組合が「雇用確保」のために、事故被害者の声に耳を貸さず、野党の「脱原発」の足を引っ張る姿。消費税増税によって法人税減税を可能にしている大資本の意を体して、消費税反対を掲げられない[連合]。こうした姿勢の延長線上に、軍事力強化と排外主義が、そして憲法見直し論が、労働組合や野党にすらひろがりかねない。すでに対中国・東シナ海問題や韓国への姿勢で、野党内にも揺らぎを散見する。立憲野党の任務は明確だ。コロナ禍の中で競争力弱者や「非正規」労働者が淘汰され、格差・貧困が一段と深刻化した。利益をあげた大資本の負担で、消費税廃止と普遍主義的な給付を実行すること。台湾や尖閣周辺の[緊張]を囗実にした軍事力強化、沖縄などの基地強化に、9条の精神で立ち向かうこと。原発再稼働を阻止すること。目前の衆院選、参院選で直ちに訴えるべき政策である。
 だが、そのような立場の政治勢力が国会に進出するのは、たやすいことではない。立憲民主党の「リベラル保守」のDNAは消えない。日本共産党は社会党解体後に受け皿として躍進したが、以降後退し頭打ちだ。日本における階級闘争の歴史的諸条件によるのであるが、リベラル保守]でも「講座派」出自だけでも、民主主義を徹底させる主体は担えない。その可能性は不十分ながら社会党・総評ブロックが孕んでいた。だからこそ、支配階級は[二大政党]化と左派排除をねらう小選挙区制を導入し、総力挙げてそれを解体し、国労をつぶし、今や沖縄民衆の闘いや、関西生コンに弾圧を加えているのではないか。
 いわゆる「第三極」の客観的意味とは、社会党なきあと、当時とは全く異なる客体的・主体的条件の下でそれぞれに奮闘してきた人々の結集をはかることである。少数から始り粘り強い努力を要するのは当然ではなかろうか。資本の利潤より命や人権、平和と環境を大事にするさまざまな社会運動を、かつての大組織の「指令指示型」ではない形態で政治的に結集していく努力は、欧米や韓国などで試行錯誤しながらなされている。日本でもとても遣り甲斐のある仕事だと思う。百万単位の人びとがこの連帯の輪に参加しなければ、社会主義も「空想」になると思う。
     *
 総選挙では小選挙区における野党共闘の勝利に全力挙げよう。これだけ民衆の生存権をおびやかした自公政権を居座らせるわけにいかない。出番を伺う維新系勢力の伸長も阻もう。小選挙区で一本化されるのは立憲民主党候補が多数であろう。一本化されれば必勝を期そう。維新系を倒すために首長選では自民党系とすら手をくまねばならない時代なのだ。
 ブロック比例はどうか。そこで社民党を支援することは野党共闘と矛盾するだろうか。否である。小選挙区制度は少数派を排除する。有権者に多様な選択肢を示し、辛うじて少数派も国政に参加できる場は比例区だ。そこで野党が独自の政策を示し切磋琢磨しない限り、疑似政策論争を展開する自民党に勝てない。野党も「二大政党」で十分だという感覚は、民主主義の未成熟の反映だと思う。
 最大公約数の一致による野党共闘を選挙区で推進すればするほどに、比例選挙では護憲の政策を示す党に支持を訴えねばならない。それは今次総選挙では社民党である。来年の参院選で社民党、新社会党、緑などで検討されている「比例共同名簿」が実現すれば、また東京選挙区など定数の多い選挙区で共同候補を擁立できれば、「市民の選択肢」はさらに拡大する。
 そして国会に「第三極」勢力が一定の議席となれば、立憲民主党をより「リベラル」にさせるだろう。また共産党を含めた野党共闘の接着剤たりうるだろう。
     *
 最後に8月28日にお披露目となった『共同テープル』にふれておく。これはその「宣言」(佐高信起草)にあるように、社民党が「新社会党や緑の党をはじめ、基本政策が一致する多くの政党・政治団体・市民団体と・・・ネットワークを強化する」と宣明したので、「それを実現するために新たなるムーヴメント」を起こそうと始まった。「新生社民党」が残りえたのは、野党の現状への識者の潜在的な危惧が背景にあると思われたが、それが具体的な形となって表れた。
 しかし「共同テーブル」自体が政党化したり、選挙母体になるわけではない。社民党が呼びかけた共同に共感し応援するのである。新社会党も含め政党側の覚悟と共同の具体化に応じて、「共同テーブル」もその役割を発揮するであろう。また近畿では近畿版の「共同テーブル」がつくられようとしている。野党共闘をめざす「市民連合」と矛盾するものでもない。「共同テーブル」発起人の多くは「市民連合」の運動に積極的に参加している。その上で次元の異なる仕事をしようというのである。例えば「革新懇」の存在が「市民連合」と矛盾しないのと同じである。
     (いしこやすくに)    
  ※⑴92頁参照、⑵77頁参照


●月刊「科学的社会主義」No.281 2021年9月号
    社会主義への道は一つではない
                           社会主義協会 理論部長    野崎佳伸

 各地で社会主義講演会が盛況のうちに開催
 コロナ禍の渦中だが6月末から7月末にかけて、各地で「社会主義講演会」が開催された。まず6月27日には大阪市内で「2021社会主義ゼミナールin近畿」。主催は「社会主義ゼミナール実行委員会」。本年のテーマは「ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事」で、講師は大阪府立大学教授の酒井隆史氏。酒井教授は昨年急逝したデヴィッド・グレーバーの著作(『フルシット・ジョブ』や『負債論』など)を翻訳されていることなどで知られ、本誌にも本年2月号に「ブルシット・ショブとはなにか?」をご寄稿いただいている。参加者は合計で82名、うち会場参加が47名、ユーチューブ視聴者は35名であった。質疑の冒頭に酒井教授から、グレーバーの死因はおそらく「新型コロナ」によるものと紹介され、会場に驚きが走った。
 次いで7月3日には千葉市内で「社会主義講演会」。主催は新社会党千葉県本部。前日からの荒天でダイヤに乱れが出たものの、予定通り開催され、70名が参加した。テーマは「21世紀の社会主義を展望する コロナ禍で変貌する世界資本主義と中国の行方」で、講師は伊藤誠東京大学名誉教授。90分間直立して休みなしにお話いただいたのには驚いた。伊藤先生は講演の際には丁寧に文章化されたレジュメを用意されるので、それだけ読んでも趣旨は理解できる。興味のある方は千葉県本部に問い合わせされると良い。
 また7月31日には奈良県内で[斎藤幸平さん講演会]、主催は「斎藤幸平講演会奈良県実行委員会」。テーマは「『欠乏』から『潤沢』へ 変革の方向を読み解く」で、講師はもちろん斎藤幸平大阪市立大学大学院准教授だ。参加者数は263名で、子ども連れの女性も結構いたという。各地のご奮闘に敬意を表したい。

 『真説日本左翼史』は[真説]か?
 話は一転するが、6月に池上彰氏と佐藤優氏の対談本である『真説 日本左翼史 戦後左派の源流 1945~1960』(講談社現代新書)が出版された。この二人の思想的傾向は大体承知しているつもりなので、王として1950年代の労農派の動向がどのように語られるのか、購読してみた(以下、敬称略)。対談は池上が引つ張り、佐藤が自説を展開し、池上が必要に応じて解説を加えるというスタイルだ。そして続編として「1960年以降」と[戦前緇]が予定されているようだ。
 さて、戦後の労農派はどのように語られているかというと極めて表面的で、何より思想的掘り下げがなっていない。山川均の、この時期の代表作である『社会主義への道』や『社会主義への道は一つではない』についても全く触れられていない。これならば佐藤が故・山崎耕一郎と対談した『マルクスと日本人』(明石書店 2015年刊)の方がはるかにましだ。また佐藤は「おわりに」で次のように述べている。①コロナ禍後、日木の格差は拡大する→②咋今、欧米では社会主義という言葉が抵抗なく使用されており、日本でも社会主義が肯定的に見直されるだろう→③その際、過去の過ちを繰り返してはならない→④現在は日本共産党の一人勝ちだが、共産党の本質はスターリン主義だ、それは避けなくてはならない、と。
 佐藤は自分の学生時代に刷り込まれた概念を未だに強く引きずっているようだ。私は何も日本共産党を代弁するつもりはないし、佐藤や池上が開陳する意見にことごとく反対するというのではない。しかし第二次安倍政権の成立以降、戦争法等の制定や憲法改悪が現実のものになろうとしたその時、「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」が学者・市民・労働組合の結束により立憲野党を糾合して発足した。その後不十分さもあるが各種選挙において候補者の調整が進み、2年前の参院選では白公の議席・3分の2割れをもたらした。このようなことは共産党の候補者調整での譲歩抜きには考え難く、それが何年にもわたって続いているのは共産党史の中でも珍しい事態であり、そこは率直に評価しなければいけない。佐藤のような「心配」を現時点でひけらかし、共産党への不信をあおることは得策ではあるまい。思うに佐藤が進化できないのは実践へのかかわりが極めて薄いからではないか。

 資本主義への道も一つではなかった
 そこで、口直しに山川均の『社会主義への道は一つではな
い』(合同出版社 1957年刊)を読み直してみた。『社会主義への道』(労大新書。初版は1955年)が労働大学の講義のために書かれているのに対し、「一つではない」の方は、主として一般向けの雑誌や新聞に発表したものを編纂したものだ。例えば本書の書名にもなった「社会主義への道は一つではない」という論文は、もとは『中央公論』の56年12月号に掲載された。この合同出版社のものは今ではそこそこの稀覯本で、古書としてもかなり高額なものになっているが、この論文だけなら『労働者運動資料室』のHPにある「堺・山川・向坂文庫」の中に収められているので自由に閲覧できる。この論文はフルシチョフによるスターリン批判が行われた後に、またハンガリー動乱の勃発の直前に脱稿されたもののようだ。以下、数力所だけ引用しておきたい。要するに山川は教条主義や権威主義を非常に嫌った社会主義者であった。
 「スターリンは外国の一訪問者に、「社会主義の実現には二つの道がある」と答えて、人々に意外を感じさせたことがある。スターリンがこう答えたとき、彼が念頭においたものは、彼じしんの歩んでいる道のほかに、もう一つは当時。世界の注目をひいていたイギリス労働党の社会主義政策だったと思う。当時私は、スターリンが二つの道を認めたのは確かに進歩であるが、しかし社会主義への道は、暴力革命か平和革命かといったような二者択一的なものではない、社会主義への道は、正確にいえば、二つではなくて多くであると批評したことがある]。
 振り返れば欧米日の資本主義への道はそれぞれの国で様々なものであったし、帝国主義への道もそれぞれに異質なものであったので、山川の指摘もしごく当然のことである。次いで山川はプロレタリア独裁の理解について詳しい解説に入るが、ほんの一部のみ引用しよう。「社会主義的な階級勢力が政治的に支配している状態とは、この支配が安定した持続性をもつことであって、それは資本主義国家では、資本主義的な階級勢力―それを代表する資本主義の政党―が持続性をもって支配している状態が必要なのと同じである。社会主義的な階級勢力の安定した政権が確立されているこのような状態は、資本主義国家におけるブルジョアジーの独裁と対照して、プロレタリアートの独裁と呼ぶことができる」。「他国の経験は学ぶべきものではあるが真似るべきものではない」。
 そして各国の社会主義への道は国際関係に強く規定されることを指摘する。この点を認識することは今日でも非常に重要である。「それぞれの国は。一国だけで、社会主義政権を樹立し、資本主義から社会主義への変革の過程をおし進めることができる。こういう意味では、一国社会主義は可能である。けれども現在の資本主義的な国際関係と国際環境のなかで、一国の社会主義は、社会主義社会からその最高の発展段階としての共産主義社会にまで発展することができるかというと、決してそうではない。この意味では、一国社会主義は不可能である。一国の社会主義的成長が国際環境の制約をうけることは、ソ連の経験が明白に証拠だてている。ソ連の社会主義的成長をゆがめたもの、ソ連に個人独裁を成立させた要因の一つは、うたがいもなく国際環境であって、戦争はもとより、戦争の脅威でさえも、スターリン独裁を強めたことは争えない」。
 「社会主義的な国際関係によって結ばれた社会主義の世界が成長するためには、新たに重要な国々が社会主義に移行することの必要なことはいうまでもないが、さしあたりソ連の支配下にある衛星諸国が自主性を回復し、独立した社会主義国としてソ連、中国、ユーゴスラヴィアなどと正常な国際関係に立つことによっても、いちじるしい前進をすることになる」。

 社会主義になれば問題は難なく解決するか
 最後に、最近読んだ図書の中で特に目についた一文を紹介しておきたい。それは森田成也氏の『マルクス主義、フェミニズム、セックスワーク論』(慶応義塾大学出版会 2021年刊)の第6章「マルクス主義と売買春」にある。私か常々考えていることを代弁してくれていると思う。
 森田氏はエングルスの『共産主義の原理』のなかの「問21 共産主義的な社会秩序は家族にどのような影響を及ぼすだろうか?」という問いに対するエングルスの答えを紹介したあと、次のように記す。「ただし、ここでの(エンゲルスの)主張は潜在的に二つの誤った認識を生み出しかねない弱点がある。一つは、結局。資本主義を廃絶するまで売買春を廃絶することはできないし、それに向けて何も有効なこともなしえないという悲観論的誤りと、もう一つは資本主義さえ打倒すれば他に何もしなくても売買春は自然に消滅するという楽観的誤りである]と。文中の「売買春」を他の事例、例えば「環境破壊」や「格差拡大」などに置き換えても同じことが言えるだろう。いずれの誤りも思考停止に導き、そして原理主義の拡散以外に何もしないことに結び付く。それはほとんど宗教である。
 伊藤誠先生は学習会の中で、主として経済カテゴリーの諸問題ではあるが[社会主義になったらどう解決するのか、考えながら(資本論などを)読みなさい」とつねづね言われる。肝に銘じたい。
     (のざきよしのぶ)


●月刊「科学的社会主義」No.280 2021年8月号
      米国の多国間主義への転換を鮮明にしたサミット
                            社会主義協会事務局長   津野公男

 はじめに
 イギリス・コーンウォール(イングランド南西部)で、6月11日~13日、主要7ヵ国首脳会議(G7)が開催された。
 今回のサミットの特徴としては、アメリカのバイデン大統領とホスト国イギリスのジョンソン首相の主導的役割が際立っていたこと、これまでトランプ大統領によって進められてきたアメリカ第一主義から、国際協調主義(といっても中国・ロシアに対抗する同盟主義)への転換が鮮明にされたこと、またジョンソン首相の「民主主義11ヵ国」(D11ヵ国)の提唱に基づいて、韓国・南アフリカ共和国・オーストラリア・インドの4ヵ国が招待されたことであろう。
 「サミット共同宣言」は3万8600字(日経訳)に及ぶが、今後の世界情勢に関して重要だと思われるものに絞って紹介する。

 多国間主義への復帰
 宣言の「はじめ」の、アジェンダ(以下Aという)4では「グローバルな行動のための我々のアジェンダは、国際協力、多国間主義及び開かれ、強靭で、ルールに基づく世界秩序への我々のコミットメントに立脚したものである。民主的な社会として、我々は、人権を保護し、法の支配を尊重し、ジェンダー平等を推進し、・・・」、「我々はコーンウォールで、開かれた社会の価値と役割に関する共通の声明で一致した豪州、インド、大韓民国及び南アフリカの首脳の参加を得た。我々は、グローバルな課題に取り組むに当たり、これらの及び我々全てのパートナーと引き続き協力する」(A5)と、トランプ大統領によって投げ捨てられてきた、アメリカ外交の核心的な謳い文句である多国間主義、開かれたルールにもとづく世界秩序が、国際的な集まりで再確認されることになった。

 財政支援と財政の持続可能性
 パンデミックの下で行われたサミットにふさわしく、「我々の喫緊の焦点は新型コロナウイルスに打ち勝つことであり、我々は、2022年中にパンデミックを終息させるという共通の目標を設定する」(A6)と、多くの具体的な国際的協力が謳われている。
 そして、「我々は、必要な期間にわたり経済への支援を継続し、我々の支援の焦点を、危機対応から、将来に向けた強固で、強靭で、持続可能で、均衡ある、かつ包摂的な成長の促進に移行させる。回復が確かなものとなれば、我々は、将来世代の利益のためにも、将来の危機に対応し、より長期的な構造的課題に対処できるよう、財政の長期的な持続可能性を確保する必要がある」(A20)と、現在の世界的な金融緩和政策を、一定の回復の兆候が見られるようになれば転換する必要が謳われている。
 経済回復(=アフターコロナ)の戦略は何か。「我々の経済成長及び回復へのアジェンダの中心にあるのは・・・グリーン及びデジタル分野での変革である」(A21)とのお決まりのグリーン及びデジタルの分野での変革戦略である。
 すでにアメリカでは、景気回復が見られ始めており、バイデン政権による大幅な財政支出によって物価や金利が上昇する気配がある。とくに住宅の高騰は顕著だ。そのため、FRB(連邦準備制度理事会)は引き締めに転ずる(テンパーリング)可能性を示唆しており、これがいわゆるテンパーリング相場として大幅な乱高下を引き起こしている。しかし日本は一向にデフレ状況から抜け出す気配は見えないし、欧州も弱い。アメリカも新型コロナがぶり返す可能性もある。いずれにしても不安定極まりない。回復した後の引き締めに触れているほど楽観的な状況にはない。

 公正な課税システム
 「我々は、世界規模で公正な課税システムを必要とする」「40年にわたる底辺への競争を覆すことに向けて重大な一歩を踏み出した」(A22)と新自由主義・グローバリズムによって進められてきた課税率引き下げ競争からの転換が言われている。
 法人税の下限を15%(バイデン政権は20%論であるが)、巨大IT企業に対するデジタル課税への国際統制・強化が合意されている。帝国主義のつねとして、より多くの利潤獲得を可能にする、労賃が安く法人税が低い諸国への資本輸出は進む。新自由主義は、それをさらに加速させ、法人税率や富裕層・高額所得者の所得税率を引き下げてきた。社会主義勢力などは別として、影響力ある政党・政権が法人税や富裕層に対する引き上げを表明したのはおそらくバイデン政権が最初であろう。やや楽観的期待に過ぎる見方かもしれないが、大きな「転換」のはじめになるかもしれない。

 自由で公正な貿易
 「我々は、農業、太陽光、衣類の部門におけるものを含め、グローバルなサプライチェーンにおいて、国家により行われる脆弱なグループ及び少数派の強制労働を含むあらゆる形態の強制労働の利用について懸念する・・・」(A29)と、中国のウイグル自治区で強制労働が行われているとの批判(もちろん中国は全面否定)を言外に込めた合意となっている。
 さらに、アメリカをはじめとするG7諸国に代表されるモデルと異なったモデルをもつ中国にたいして強制的技術移転、知的財産窃取・・・国有企業による市場歪曲的な行動等々が並べ立てられ、「世界貿易のルールブックを現代化する」と述べられている。
 ただ、日本は外国人労働者の実習制度が強搾取、人身売買の疑いもあるとアメリカの研究機関から指摘されており、中国を批判する立場にはない。また、ウイグル族問題に関しても、ファストリ(ユニクロ)がやり玉に上かっているが、そういう事実はないと突つぱねている。しかし欧米諸国の不買運動は決して侮れないと思われる。

 グローバルな責任及び国際的な行動―「台湾」明記
 いわゆる「政治的分野」では、で「我々は、ここカービスベイ(コーンウォールのリゾート地)で我々と共に会合した・・・豪州、インド、南アフリカ及び大韓民国の首脳と共に署名した「開かれた社会に関する声明」に反映されているとおり、国際システムにおける開かれた社会として我々の共通の価値を推進するために協働する」(A48)と述べ、各国、地域に対する対応を列挙している。「我々は、包括的で法の支配に基づく自由で開かれたインド太平洋を維持することの重要性を改めて表明する。我々は、台湾海峡の平和及び安定の重要性を強調し・・・、緊張を高めるいかなる一方的な試みにも強く反対する」(A60)と。もちろん、中国も対抗意欲満々である。
 7月1日に開催された中国共産党創立100年祝賀大会では、「いかなる外部勢力によるいじめや圧迫も許さない」「14億人民の血肉によって築いた鋼鉄の長城に必ずぶつかり、頭から流血するだろう」「世界一流の軍隊の創設」と、これまたすさまじい。

 G7の合意は一枚岩か
 「サミット宣言」を読む限り、G7や他のサミット参加国と中国の間の溝が深まり、政治的対立、経済対立ともに激化の一途をたどっている。サミット前から、アメリカの安全保障を口実とした、先端技術分野での輸出入にたいする厳しい規制は始まっていた。
 また、「戦狼外交」と揶揄されるごとく、批判されればされるほど強圧的にふるまう中国の姿勢にたいして欧州でも中国に対する警戒感はひろがっていた。とくに、香港問題が一挙に警戒感を高めることになった。どこまで欧州諸国が「インド・太平洋構想」を本気で信じているかは別としても、イギリスやフランスがインド太平洋に空母や主力艦を回遊させるなどの動きがでていた。
 しかし先進国全体が同じ厳しさを持って中国に臨んでいるわけではない。歩調で、中国に対する必ずしも一枚岩ではない。たとえば、ドイツの場合にはVWなど中国市場がなければ土台が傾くほどに中国に入れ込んでいるし、「一帯一路」戦略のヨーロッパでのターミナルと目されているイタリアなどは、「声明」では表向き賛同していても、中国に対して強い立場は取れない。

 デカップリングは可能か
 日本にしても、政治的には「開かれたインド太平洋構想」の拡大などの強硬姿勢を掲げながらも、経済的には中国抜きには発展できないのが現状である。『週刊 ダイヤモンド』(6月26日)では、「米中の板挟みになる日本企業」のテーマで、いかに日本企業が中国市場の恩恵を受けているのかについて特集記事を掲載している。
 米中の軍事的覇権争いほど単純ではない経済的覇権争は、「経済安保」論で激化しているが今後の展開を予想することは難しい。例えば、2020年の米中貿易総額5592億ドルにたいして、日米の貿易総額は1833億ドルに過ぎない。また日本の今後の米中摩擦の激化にともない、米中貿易は当面減少する可能性はあるが、米中間の大きな位置を占めている。なお、日本の主要な輸出先は、中国、アメリカが首位を争い、あと韓国や台湾などとなっている。
     (つの きみお)


●月刊「科学的社会主義」No.279 2021年7月号
    クーデターNO! ミャンマー民衆に連帯しよう
                            社会主義協会 代表    河村洋二

 軍事独裁政権を許すな
 昨年。2月の総選挙で大勝利したNLD(国民民主連盟)政権が、ミャンマー国軍(ミン・アウン・フライン総司令官)によるクーデター(2月1日)で転覆された。それから4か月。国軍は、ミャンマー民主化のシンボルであるアウン・サン・スーチーさん(75才)をはじめ、ウィン・ミン大統領、与党NLD(国民民主連盟)の指導部40人余を逮捕、拘束し、政権を強奪、向こう一年間の国家非常事態宣言を発し、ミャンマーを軍事独裁政権下に置いた。
 軍事独裁政権に対して、自由と民主主義を求めるミャンマー民衆は、直ちに反軍デモなど抗議行動に立ち上がった。国軍は、抵抗するミャンマー民衆に暴力の雨を降らせ、発砲するなど弾圧、虐殺を続けている。その犠牲者は、840人(ヤンゴン共同、6月1日)にのぽり、とどまるところを知らない。
 スーチーさん率いるNLD(国民民主連盟)は、4月16日、ミャンマー連邦議会代表者委員会を開き国民統一政府(以下臨時政府という)樹立を宣言し、国軍に拘束・軟禁中のウィン・ミン大統領、スーチー国家顧問の留任を決定した。さらに臨時政府は、相次ぐ国軍の民衆への発砲に国民防衛隊を創設、民衆とともに武器による抵抗を開始した。
 国軍(=国家統治評議会)は、臨時政府を非合法テロ組織と規定し、軍政に抵抗する民衆への暴力(射殺を含む)を繰り返している。

 創意工夫いっぱいの抵抗闘争

 早朝デモ、深夜デモ、サイレントデモ
 以下は、四国で私と共にたたかうJAL闘争団、大池ひとみさんから送られてきた「JAL愛媛原告団を支えるニュース」(5月20日)の一部である。ミャンマーの首都ヤンゴンに住む大池さんの友人からの情報を大池さんがまとめたものである。現地の日常や民主化の継続を求める民衆の創意工夫いっぱいの抗議行動の様子がよくわかり、面白い(失礼だが)ので、少し長いが紹介(本人了解済み)したい。

 「ミャンマー在住の知人から『日本の皆さんに拡散して日本の政府に抗議をしてもらってください』と毎日のように情報が届きます。ミャンマー国民は、2007年にサフラン革命を経験しており不服従キャンペーンを(クーデター直後)即開始したようです。
 毎夜8時になると一斉にお鍋の蓋など音の出るものをたたいたり、歌を歌ったりして抗議の意思を表わします。そして徐々にデモを始めます。軍の取り締まりをかいくぐる早朝デモ、深夜デモ、サイレントデモから道路いっぱいにパネルを立てたり、延々と靴を並べたり、小旗を敷き詰めたり、靴に花を盛って街のあちこちに飾ったり、同じ色の服を着たり、川の中で立ち泳ぎをしながら訴えたり、毎日毎日いろいろな工夫を凝らしたデモが国内各地で行われています。子供も(デモ参加者が)熱中症にならないように、空腹で倒れないよう無料の水や食料(市民がお金を出し合って準備)を配るボランティアをしています。

 独裁への抗議、3本指ピース
 世界各地で『ミャンマーを応援します』というプラカードをもった自撮りやミャンマーの国連大使が指3本を掲げて国軍独裁へ抗議したことからピース(指2本)の代わりに指3本の写真をスマホに載せる人が増え、日本でもささやかなデモが起こったりしています。それでも日本のメディアは、日本人ジャーナリスト(4月18日ウソ報道で北角裕樹さん拘束、5月16日釈放)のニュース以外、大きく取り上げていません。現地からは、市民が公道で軍人に殴られたり、痛めつけられている映像、亡くなった方々の無残な姿も隠さず送られてきます。ありのままの現実の姿を直視するという強い意志を感じます。
 わたしの知人は一切外に出られずストレスのたまる日々を過ごしているようです。遮断されたテレビやラジオ、つながりにくい電話、時間制限されたインターネット、預金が引き出せない銀行の窓口、外貨預金は没収されそうになったので日本からの送金は停止してもらっているそうです。先日、歩いて1分の床屋さんに行くことにしたと嬉しそうにメッセージが届きました。それが何と護衛付きなのだそうです。『たかが1分でも外国人はスパイ扱い、携帯電話を持っていたら取り上げられ、持っていなかったら罰金を払わされる。訳が分かりません』と書いてありました。

 クーデターから4か月
 クーデターからそろそろ4か月。デモは毎日行われ、収まるどころかますますバラエィーに富んでお祭りのようになっています。サフラン色の袈裟を着た僧侶たちの持つ蝋燭デモの灯、色とりどりのフラッグを振りながら田んぼ道を練り歩く若者たち、茶畑にポコポコともぐらたたきのように人が立ち、トウモロコシ畑ではトウモロコシの外皮に抗議文を描いてみたり、亡くなった方々の写真を墓石のように並べてみたり、一斉にパネルを掲げて道路に広がってみたり、バイクデモ、自転車デモ、小舟デモ、Tシャツデモ、ごみデモ、小石デモ、人形デモ、ぬいぐるみデモ、キャンドルデモ、雨の日はカラフルな傘を差し、暑い日はノンラー(三角の編み笠)をかぶって町中が三角頭であふれ、とにかく毎日、毎日、国のどこかでアイデアに満ちたデモが行われ、まるでそれを楽しんでいるかのように見えます」

 行動しなければ何も変わらない
 そして最後に大池さんは言いました。
 「小さな子供を含め殺された人は800人を超え、拘束された人たちの数はわかりません。それでもあきらめないで軍に不服従の姿勢を貫いているミャンマーの人たち。日本人に足りないのはこれだと思うのです。どうしたら打開できるのか考える想像力、皆で団結して行動する決断力、そしてそれを楽しめるおおらかさ。彼らは決して余裕のある生活ではないけれど、お年寄りも、若者も子供も一緒になって堂々と軍に抵抗する意思を示しています。諦めたらそこで終わりなのです。ただ不平不満を並べるだけなら楽でいいです。文句大好き日本人。デモ行動しなければ何も変わらない。ぜひ見習いたいものです」と。
 まったく同感である。

 ミャンマー民衆に連帯しよう
 こうしたミャンマー民衆の抵抗は、国際的にも評価され、国連はいち早くこれを支持、クーデターを行った国軍政府を非難し、拘束されたスーチーさんらの解放を要求している。5月1日には世界18か国で抗議集会、デモが行われた。東京都内の集会には3000人の参加があったという。
 5月18日には米・英・加が追加制裁を発表し、ASEAN(東南アジア諸国連合)も「即時暴力の停止、全当事者の対話、アセアン特使の派遣」を国軍政府に呼び掛け、仲介に乗り出した。日本は食料援助(4.3億円)に続き5月26日、国軍政府によって外交官資格をはく奪されたミャンマー大使の身分、資格を保障するなど国軍政府を現時点では認めていない。
 国軍政府は、こうした国際的な動きを実質的に無視している。そして絶大な人気を誇るスーチーさんを軟禁して、国民に会わせず、知らせないようにして「無線機の密輸入事件」をデッチあげ、裁判にかけて罪人扱いし、スーチーさんの国民的人気を貶める一方、臨時政府を非合法テ囗組織と規定し、NLDの解散と選挙無効、やり直しを示唆しながら国民の人気を取り付けようとしている。
 ミャンマー憲法は国会議員の4分の1は国軍に保障され、憲法改正には4分の3の賛成、すなわち75%の議席が必要だということで民主憲法の制定はほとんど不可能とみられていた。しかし、先の総選挙ではスーチー派が476議席中83%、396議席を得る圧倒的大勝利を納めた。ミャンマー民衆は2011年の民政移管から積み上げてきた民主化運動が成就する期待に胸を膨らませ、NLDは憲法改正を示唆していた。国軍は自らの政治的支配が崩壊することへの強い危機感があった。つまりこれが国軍クーデターの背景であり、真相である。
 ミャンマーは長い軍事独裁政権の歴史をもっている。ミャンマー民主主義と人権のためには二度と軍事独裁政権に逆戻りさせてはならない。そのためにはミャンマー民衆に連帯する取り組みが必要だ。ミャンマーの民主化と国家建設資金の大半は諸外国からのODA(政府開発援助資金)が占めている。日・米・独・仏などその額81億ドル(8900億円)のうち、日本が48%・39億ドル(4300億円)を占めダントツである。日本政府の役割はとりわけ重要といえる。すでに日本に住むミャンマー市民からは、日本のODAの全面凍結が叫ばれている。米・英・加は国軍幹部の資産凍結、取引禁止を決定した。
 われわれも大池さんの呼び掛けもあるように日本政府やマスコミへの働きかけ、在日ミャンマー人との交流、集会、デモ、カンパ活動などに取り組み、ネット、メール、SNSなどをフル活用してミャンマー民衆への支援、連帯行動を強めていかねばならない。
     (かわむら ようじ)




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